総予測2024#26Photo:Yusuke Ide/gettyimages

物価上昇と人手不足が続く中、2024年の雇用・賃金の最大の焦点は、春闘での賃上げ妥結率だ。30年ぶりの高水準となった23年実績を上回り、「物価上昇に負けない賃上げ」を実現できるのか。特集『総予測2024』の本稿では、法政大学経営大学院教授の山田久氏に、24年の雇用賃金の状況を徹底分析してもらった。(法政大学経営大学院教授兼日本総研客員研究員 山田 久)

専門・技術職を中心に
人手不足の状況が続く

 わが国の労働市場は需給がやや緩和する傾向が見られるが、人手不足の状況に変わりはない。有効求人倍率は2023年10月時点で1.30倍と、コロナ禍後のピークの1.36倍(22年12月)からやや低下したが、需給均衡を示す1を大きく上回っている。

 職種別には、事務関係で1を下回り、製造関係で緩和傾向が散見される一方、専門職・技術職では多くの職種で1を上回り、求人倍率が上昇傾向にあるものも少なくない。

 現場労働者の需給逼迫も目立っており、介護関連職種や飲食・接客関連職種で不足感が強まっている。さらに建設関係職種、自動車運転職種でも求人倍率は上昇傾向にあり、いわゆる運輸・建設の「2024年問題」の深刻化を示唆する状況にある。

山田久・法政大学経営大学院教授兼日本総合研究所客員研究員やまだ・ひさし/法政大学経営大学院教授兼日本総合研究所客員研究員。1963年生まれ。87年京都大学経済学部卒業、住友銀行(現三井住友銀行)入行。日本総合研究所副理事長などを経て現職。

 こうした中、完全失業率はこの1年間、2%台半ばでの一進一退の推移。分母に当たる労働力人口は、緩やかに増加する方向にあるが、コロナ禍前のピークには届いていない。

 これは、女性の労働力率が全ての年齢階層別で米国を上回る状況となり、65歳以上のシニアの労働力率もコロナ禍以降ほぼ横ばいで推移する中、10年代半ばごろから続いていた労働力率の上昇傾向にブレーキがかかっているためだ。

 コロナ禍でいったん減少した外国人労働者数も回復してきているが、内外賃金格差の縮小や外国人実習生制度の見直しなどで増勢の持続性には不透明感がある。労働力人口がピークアウトしつつあることは失業率を下押しする要因であるが、労働条件やスキルのミスマッチで就業者数も伸びず、失業率が下げ渋っている形である。

23年春闘が30年ぶりの高水準になった要因とは?そして、24年最大の焦点となる春闘妥結率は、「物価上昇に負けない賃上げ」となるのか?次ページで徹底解説する。