「私も大腸内視鏡検査はそれくらいパワーのある検査だと思っています。大腸がんの予防、早期発見を進めるために、どうするのが良いのか。大腸内視鏡検査を国民全員に受け入れてもらえるか、自治体と医療者側の人員や受け入れ体制なども含めて課題はたくさんありますが、一つひとつ整理して、より良い検診方法にしていく必要があると考えています」(松田教授)

大腸がん検診受診率を
4倍に伸ばした韓国

 健康や病気予防の意識が高まっている人は確実に増えている。問題は、なかなか受診しない人たち。彼らに受診してもらうためにはどうしたらいいのか。メンタリティとか行動様式とかを研究して、それを見つけないと問題の解決につながらない。

 松田教授は海外の例を話してくれた。

「バラク・オバマ前大統領による医療改革『オバマケア』から始まったと記憶していますが、アメリカでは低所得者層でも内視鏡検査を1回受けられるチャンスを与えました。アメリカは検診費用も高額で、内視鏡検査だと最低でも10万円以上はかかります。それが無料で受けられるため、非常に大きな反響があったと思われます。

 韓国では2004年から便潜血検査を開始していて、陽性になった人の内視鏡検査を無料にしたことで受診率が7.3%(2004年)から30.5%(2017年)に上がったそうです。さらに、住民登録番号と個々の検診の有無などが紐づけられているので、精密検査をしていない人を行政が拾い上げやすくなっています。この点は日本ではできていないことなので、非常に歯がゆく思っています。

 日本、アメリカ、韓国の大腸がんの死亡率の変化を調べたデータを見ると、3カ国とも下がってはいるのですが、アメリカ、韓国に比べて日本の下がり方は緩やかで、現状は下げ止まっている状況です」(松田教授)

 日本の場合は国民皆保険制度があり、それほど高い費用もかからず常に内視鏡検査を受けられる。だから「内視鏡検査が無料」というチャンスがあってもメリットを感じにくいだろう。だったら、大腸がん検診を受けたらどこかのポイントがもらえるとか「得した気になる何か」を与えれば、行動のきっかけになるかもしれない。

 検診のための時間を作りやすくするための体制や整備も必要だろう。