「便潜血検査は、大腸からの出血が便に混じっているかどうかを調べます。原因ががんとは限りませんが、詳しく調べる必要があるわけです。陽性者には要精密検査の案内が届きます。ここで腸内を詳しく観察できる大腸内視鏡検査を行うことが多いのですが、一定の割合で精密検査に行かない人がいる。精密検査の内視鏡検査で大腸がんが発見されるのは便潜血陽性者の3~5%くらいで、しかもその60%が早期がんなので、しっかりと検査を受けていれば治る可能性は十分にあります。一方、検診をせずに血便や腹痛などの症状が出てから病院を受診した場合は、80%が進行がんだったというデータもあります」(松田教授)

大腸内視鏡検査が
実施されない理由

 松田教授は精密検査に行かない理由の統計も教えてくれた。

「1位は男女ともに『自覚症状がないから』。その段階なら早期がんの可能性が高く、治療でほぼ治るとされているのですが。2位は『いつでも医療機関で治療を受けられるから』、他に『費用がかかる』『内視鏡は痛くて辛そう』などですね。内視鏡検査で腸内にポリープが見つかった場合は、同時に切除もできます。ポリープががん化するのを防ぐことにもなるのですが、これが現実です」(松田教授)

 松田教授は「もっと啓発が必要」と医師として責任を感じていたが、僕は最初の検診を便潜血検査ではなく、内視鏡検査にすれば解決する話ではないかと思う。今の内視鏡なら腸内の状態も鮮明に見られるし、ポリープも切除できるし、いいことずくめだ。実際、自費診療でそうしている医療機関も多いし、僕もそうしている。

「検査方法について、学会など関係各所で議論はされています。『有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン』の改訂作業が、がんセンターを中心に行われているところですが、便潜血検査の『A評価=実施を勧める』に対して、大腸内視鏡検査は『C評価=実施しないことを推奨』となっているのが現状です」(松田教授)

 内視鏡検査のエビデンスデータが十分ではないから、まだメインで推奨するわけにはいかないということなのだろうか。データが揃うまで、何年待つというのか。

 その間にも精密検査を先延ばしにして病状を悪化させ、亡くなる人がいるのに。複数の医師から「50代で1度、内視鏡検査をして、見つかったポリープも取ってしまえば、大腸がんで命を落とすことはなくなる」と聞いたこともある。