そのテストステロンの数値は個人差があって、年を取ってもそれほど変化のない人もいる半面、30~40代から減っていく人もいるそうだ。しかし、確実に影響が大きいのはストレス。特に社会的な変化によるものが大きいことが最近わかったと堀江教授は教えてくれた。

 たとえば、退職や望まぬ配置転換、仕事の不調など。社会で自分が評価されたり、自分らしさを表現できていたり、仕事が好調だという実感があるとテストステロンは分泌されるが、ストレスを感知すると、身体はテストステロンを分泌することをやめてしまう。そしてテストステロンが減ると、意欲が低下したり人間関係がおっくうになったり、眠りが浅くなったりするなど心身への影響が現れる。これが健康リスクの増加にもつながり、高血圧や糖尿病、がん等の病気にも関わってくる。

男性の更年期障害は
「LOH症候群」という病気

「更年期」と聞くと女性のことだと思う人は多いだろう。女性更年期は「女性すべてが経験すること」だが、男性の更年期障害は病気として扱われている。それは「LOH症候群」といい、テストステロン値が一定の値よりも低くなる状態で「加齢性腺機能低下症」という名前もついている。

 代表的な症状は、疲れやすい、発汗、ほてり、筋肉痛、肥満、頻尿、イライラ、鬱、集中力の低下など。そう、テストステロンの数値が低すぎる状態を放っておいてはいけないのだ。年齢を言い訳にして放置すると、より深刻な病気につながりかねない。

 LOH症候群の治療は泌尿器科など男性更年期を診る科のほか、アンチエイジング医療を行うクリニックで受けられるが、テストステロン補充療法や、薬物療法、エクササイズ、食事療法、マインドフルネス、リラクゼーション等さまざまな治療法がある。原因がテストステロンの減少なのだから、足りないものを与えるテストステロン補充療法が理にかなっていると思うのだが、日本では男性に向けたテストステロン製剤が少ないのだそうだ。

 保険適用されるのは、なんと30年以上前に承認された筋肉注射剤しかなく、効果は数日程度で副作用も大きく、何より注射なので痛い。海外ではテストステロンを補充するゲルや経口薬などがあるというのに。

 なぜ日本では、テストステロン補充を目的とした薬が開発されないのか?