井上 近藤さんは北尾会長を恩人だとおっしゃっているのは、その一番困ってたときに、手を差し伸べてくれたっていうことですね。

近藤 そうです。義理は結果で返せると思うんです。たとえば株価が上がって、数十倍のリターンを得てもらうとか。しかし、恩というのはやっぱ一生返せないと思うんですよね。

 僕にとっては、あのとき北尾会長と会わなかったら、少なくとも今の僕はないと確信できるので、やっぱり生涯の恩師ですよね。

100年に1人と10年に1人
何が違うのか?

井上 孫さんはいまもチャレンジを続けていて、AI革命に挑んでいますが、近藤さんは今後の展望をどのように描いていますか。

孫正義氏と近藤太香巳氏提供:近藤太香巳氏

近藤 孫さんと2人で車に乗ってるときに言われた言葉があるんです。会話の内容は忘れましたが、「近藤君、会社は経営者のスケール以上に大きくならんからな」とボソッと言ったんです。

 僕はそのときは、なるほどな、ぐらいしか思わなかったんですね。でも、あるときから確信に変わったんです。その通りだなと。

井上 どういうことですか。

近藤 やっぱりチャレンジでしか進化しないんだなと。現状維持は、退化なんだなと僕なりに解釈をして、だから常にチャレンジしようと。自分の能力内でやってることはチャレンジとは言わず、できないかもしれない、また、世間からはできるわけもないと思われることをやって、その限界突破した分が会社を大きく成長させると。経営者としての根源的な部分を孫正義さんから学ばせてもらったなと思っています。

 ただ、僕は孫さんと違うところがあるとするならば、僕は19歳から仲間と一緒にやってきて、社員は大好きなファミリーという意識です。孫さんほどドライにはなれない。

近藤 だから自分は何のために頑張るのかって言ったら、もう本当に心から思ってることなんですけど、仲間の笑顔のためなんですよね。仲間を笑顔にするためにはどうしたらいいかといえば、まずはお客様を笑顔にすること。お客様の笑顔の数が利益であり、その利益が株主や取引先の皆様、ステークホルダーを笑顔にできると思っているんです。

 上場会社として企業価値を高めることがミッションですが、でもそのうえでこのネクシーズという国みたいなものの仲間たちが笑顔でいれたらいいなって思ってるんですよ。

井上 やはり孫さんのやり方はドライに映るんですね。むしろ、ウエットだと私は思います。近藤さんの考え方は素晴らしいです。

近藤 僕は企画マンだから、今までなかったサービスを世の中に普及させたい。たとえば、今やっているネクシーズZEROという省エネ設備導入サービスは、10万件以上のお客さんがいるんですね。CO2の排出削減が200万tできるんです。200万tというと、人間1人が1年間で9t~10tのCO2を排出するといわれるので、20万人のCO2排出削減に僕らは貢献しているんです。

 20万人というのは渋谷区の人口とほぼ同じなんです。渋谷区の人が全員1年間電気を消して、息を止めているぐらいの排出削減をしてる。社員みんなが誇りに思ってるんですよ。

井上 なるほど。

近藤 だから誇りに思ってやるっていうのはすごく大事じゃないですか。そういうサービスをつくるのが僕は好きなんですよ。もちろん売り上げをこうしたい、利益をこうしたいというのは当然経営者だからあるけども、どっちかっていうと、何か世の中の課題を解決して、たくさんの人が笑顔になること、社会にとってなくてはならない会社になりたいと思っています。

井上 まさにサステナビリティ経営ですね。

近藤 Yahoo! BBも、孫さんと一緒に日本のブロードバンド革命に参加できたことは、やっぱり社会に貢献してるという意味では本当に誇りに思っているし、いろんな学びもあったので感謝しかないです。