仕事とは「板挟み」をなんとかすること

青木 最初のころは社員が3、4人しかいなかったので、これをビジョン(今のマニフェスト)として掲げていればなんとかなりました。

佐宗 え! 社員3、4人のタイミングですでにここまで考えていたんですか……それはすごい!

佐宗 一方、バリュー(今のフォーム)はどんなタイミングで生まれたんでしょう?

青木 人数でいうと30、40人のときだと思います。別に何か大きな事件が起きたわけではないのですが、多様な人がいるからこそ、どういう振る舞い・在り方がいちばん成果につながるかを会社なりに規定する必要が出てきました。

クラシコムは地球上にある日本の株式会社です。だから地球環境の制約を受け入れる必要があります。また社会の中の法や倫理という制約の範囲で我々は活動する必要があるし、株式会社という形態を選んだ以上、営利の範囲でしかできません。そういう土台の上でミッションを決め、それを達成するためのマニフェストをつくりました。つまり、どんどん「制約」をくっつけて、自分たちの活動の幅を絞っていっているようなイメージなんですね。

 「北欧、暮らしの道具店」を生んだクラシコムは、理念体系をどう整備してきたのか?

そのうえで、「当社においてはこんなふうに働ける人が最も成果が出るので、これに合わせてくださいね」というのを定めたのがフォームです。人を採用するときにも「これに合う人に来てほしいです」という伝え方をしていますね。でも、これは個人の価値観を否定するものではありません。法や倫理の範囲を守っていれば、本来はどんな価値観でも許されるはずですから。あくまでも会社として大事にしてほしい基本的な「型」ですね。

佐宗 なるほど。では、なぜ「センシティブ、チャーミング、オルタナティブ」を選ばれたのでしょう?

青木 仕事って負荷と葛藤のあるものですよね。端的にいうと「板挟み」をなんとかするのが仕事だと思うんです。部下と上司の板挟み、取引先と自社の板挟み、自社とお客さんとの板挟み──それらを「いい感じでなんとかしていく」のが仕事の本質だと僕は思っています。そのために必要になるのが、この3つの要素であると。

たとえば、板挟みの負荷と葛藤があるなかで、「鈍感力」を鍛えるべきだと言う人もいます。でも、僕は自分の感覚や感情に気づける能力ほど重要なものはないと考えていて。そうでなければ、どんなに思考力や交渉力があってもうまく使えませんからね。だからまずは「センシティブ」であることが重要。ただし、誤った知覚を持ってしまって過度にナイーブになることを推奨したいわけではないので、センシティブを「感受性の高さ+正確な知覚」と定義しています。

2つ目がチャーミングです。センシティブであることによって、いろんなことに目が行くようになるはずです。そのとき、キャパオーバーでパニックにならずに、一定の成果を出し続けるためには「チャーミング」であることが求められます。これも単なる「人たらし」のことではなく、「好意と敬意の双方を獲得する在り方」と定義しています。なぜなら「好意なき敬意」は恐れと警戒を生みますし、「敬意なき好意」は侮りと甘えを生むからです。

最後の「オルタナティブ」は今回の理念刷新のタイミングで「サステナブル」に変えました。よくよく振り返ると、実はオルタナティブでありたいと思ったことは一度もないことに気づいたんです。ただ、イノベーションを起こした結果、社会の側からはオルタナティブとして映ることがあるだけです。その根底にあるのは「サステナブルでありたい」という願望なんです。

佐宗 この3つが「フォーム」としてあることで、マニフェストやミッションに向かえるということなんですね。非常に美しくつながり合った理念体系だなと思います。