米倉 次はどんなビジネスがヒットするか分からないから、とにかく若い人たちに(心持ちを含めて)数を打ってもらって確率を上げるしかないという前提のエコシステムだということです。

 まず、数を打つ起業家には低いマーケット・エントリー・リスク、つまり参入障壁を下げる豊富なベンチャーキャピタル資金(返済義務のある銀行融資はリスクが高い)を用意し、成功した起業家と投資家にはその努力と投資に対する大きなリターンを実現する上場市場(ナスダック)やさまざまなイグジットが整備されています。

 例えば、宝くじを買う人も多いでしょうが、大当たりする確率はかなり低い。しかし、みんなが買う理由は、1本300円という少額の出費(ローエントリー・リスク)で、当たれば1億円というハイ・リターンが得られるからです。もし宝くじが1本30万円と高額なら、誰も買わないでしょう。

 シリコンバレーの素晴らしい点は、ベンチャーキャピタリストがこのような才能を見出す場が豊富にあるところです。銀行の融資と異なり、ベンチャーキャピタルは起業家と共にリスクを共有し、もし事業が失敗しても担保を取ることはありません。一緒に責任を負い、失敗してもすぐに次の挑戦を共にする関係です。
 
 日本では、倒産した後の再起は難しいですが、シリコンバレーでは失敗は学びの機会であり、財産になるという発想で、仮に倒産してもどんどんチャンスが与えられます。

 この考え方に基づいて、シリコンバレーではハイリターンが実現できる透明性と流通量の多い「ナスダック」という上場市場が整備され、ハイテク株やIT関連企業向けの上場が促進されました。これがとんでもない価値を付けました。上場しやすいマーケットの誕生により、積極的にチャレンジする優秀な人々がシリコンバレーに集結し、勝率がどんどん上がっていったのです。

 シリコンバレーの本質は、いわゆる金融的なリスクを取らずに高いリターンを得られる環境で、優秀な人材が集まることです。日本でも新興市場は作られましたが、ナスダックほどの規模やリターン、流通規模は見られませんでした。こういうシステムがアメリカで先に確立されてしまったため、日本は太刀打ちできないなと感じました。

ジョブズにあって
孫正義にないもの

井上 最後になりますが、孫さんはいつも「自分はこのままでいいのか?」と自問自答しています。もし米倉さんから孫さんに何か言葉をかけるとしたら、どんな言葉をかけますか?