米倉 坂本龍馬が「幕末の志士」と称されるように、その人物を簡潔に表すワンフレーズが必要ですね。“孫正義”の三文字でも世界に通じますが、教科書にも載るような経営者となるためには「情報革命の志士」のような彼を象徴するフレーズが必要でしょう。

井上 確かに、孫さんは情報革命で人々の幸せを追求すると公言していますので、情報革命というのは重要なキーワードです。彼の取り組み方は志士であり、イノベーターだと思います。

「ローリスク・ハイリターン」
がイノベーションの土台となる

米倉 ただし、同世代の中で考えると、スティーブ・ジョブズ氏にはアップルのiPhoneやMac、ビル・ゲイツ氏ならマイクロソフトのWindowsなど、革新的なモノがあって分かりやすい。一方で孫さんも、彼らと同じぐらいの影響力はあるかもしれませんが、彼自身が生み出した具体的な製品があるともっといいなと思います。

井上 その観点から見ると、孫さんはモノが何もない無形の分野で新しい何かを生み出してきたと言えるのではないでしょうか?

米倉 シリコンバレーの範疇にないものを生み出してきたという点では、孫さんの取り組みは一種の「Disruption(ディスラプション)」、つまり既存のものを破壊してきたと言えるかもしれません。

井上篤夫氏井上篤夫氏 Photo by Motoyuki Ishibashi

井上 破壊とは、新しいものを再構築するという意味もありますよね。実は、私の著書『志高く 孫正義正伝』の英語版のタイトルが『Aiming High: Masayoshi Son, SoftBank, and Disrupting Silicon Valley』(Hodder& Stoughton,Ltd)で「シリコンバレーの破壊者」というサブタイトルなんですよ。これはイギリスの出版社が付けたものですが、そもそも米倉さんは、シリコンバレーに対してどんな評価をされていますか?

米倉 僕が理解したのは、シリコンバレーは単なる地理的な場所ではなく、21世紀のビジネスのあり方やエコシステムの総称だということでした。