現代人は「慢性的で容赦ないストレス」に押しつぶされ、頭も肉体も、そしてメンタルも疲れ切っている。私たち人間が本来持つ「エネルギー」を取り戻すには、どうすればよいのだろうか? 本連載では、スタンフォード大学で人気講義を担当し、億万長者の投資家、シリコンバレーの起業家、アカデミー賞俳優のコンシェルジュドクターでもあるモリー・マルーフの著書『脳と身体を最適化せよ!──「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する科学的健康法』から人生最高の時期を引き延ばし、生活の質を最大限に高め、幸福度を増し、慢性疾患の発症リスクを下げる「最新の健康法」を紹介する。

【医者が教える】「そもそも、エネルギーはどこから生まれる?」答えられない人が知るべきことPhoto: Adobe Stock

ミトコンドリアがエネルギーを生み出す

 ミトコンドリアは、周辺環境から効率よくエネルギーを取り込むために、進化の過程で宿主細胞に吸収された真正細菌から進化したという有力な説がある。

 この共生関係を通して、これらの細菌が宿主生物のためにつくり出した余剰エネルギーが、より高度で複雑な生物の進化を可能にした。つまり、ミトコンドリアは人類の進化に重要な役割を果たしたと考えられるのだ。

 しかし、ミトコンドリアは人間の一部ではない。ミトコンドリアは固有の器官であり、独自のDNAを持っている。人間とミトコンドリアは相互に依存しているが、別個のものだ。

 自分がミトコンドリアの宿主だと考えると、体内に生息する「間借り人」についてもう少し知りたくなるだろう。

 ミトコンドリアはあなたのためにどんな働きをしているのか? それを知れば、ミトコンドリアを最適化する方法も理解しやすくなるだろう。早速本題に入って、その働きを詳しく見ていこう。

 基本的な質問をしてみたい。そもそも、エネルギーはどこから生じるのか?

 ずっとさかのぼれば、元々エネルギーは太陽からもたらされている。植物は太陽光を取り込み、細胞内にエネルギーとして蓄える。動物は植物を食べ、動物の体内にあるミトコンドリアが植物の中のエネルギーを糧(かて)に動物のエネルギーをつくり出す。

 私たちが動物や植物を食べると、そこに蓄えられていたエネルギーを体内のミトコンドリアが取り込んで、エネルギーをつくる。

 エネルギー産生自体は、水力発電ダムの貯水池の水をゆっくりとくみ上げる太陽光発電ポンプに似ている。エネルギーが必要になると、ダムが開放されて水が流れ出し、タービンが回転してエネルギーを生み出すのだ。

 ミトコンドリアの場合、エネルギーはアデノシン三リン酸(ATP)の形でつくられる。ATPはミトコンドリアによって産生、貯蔵、消費される細胞内のエネルギー通貨だ。

 ミトコンドリアはこのエネルギーを蓄える「バッテリー」と、エネルギーを送り込む「コンデンサー」の両方の役割を果たす。

 フィラデルフィア小児病院ミトコンドリア・エピゲノム医学センター所長のダグラス・ウォレス医学博士によると、ミトコンドリアは人の細胞エネルギーの90%を産生しており、ミトコンドリアひとつ当たり0.2ボルトのエネルギーを保持している。

 私たち一人ひとりの体内にはおよそ10の17乗個のミトコンドリアが存在するため、あなたは実に稲妻ひとつ分を超える位置エネルギーを蓄えていることになる!

 私たちの身体は、細胞が生み出したエネルギーを使って働いている。それは細胞レベル(細胞からの老廃物の除去など)でもそれ以上のレベル(体格の形成や筋肉の使用など)でも同じだ。

 私たちは細胞でできているため、私たちの行動すべてが、目で見て認識できるマクロレベル(家を掃除する、庭の芝刈りをする、脳を使って仕事する、セックスする、走る、話すなど、つまりは生活全般)だけでなく、エネルギーがつくられている細胞レベルでも起きている。

 そのため、ミトコンドリアがエネルギーをつくるために必要なものをすべて受け取らなかったときに、私たちはそれに気づく。

 細胞レベルでエネルギーを失えば、生活レベルでもエネルギーを失ってしまうのだ!

(本記事は『脳と身体を最適化せよ!──「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する科学的健康法』から一部を抜粋・改変したものです。)