「アルムナイ」の広がりに伴う“さまざまな声”について、私がいま思うこと

「人的資本経営」のキーワードとして「アルムナイ」が目立つようになった。企業が自社の退職者である「アルムナイ」とどのような関係を築いていくかは、人材の流動性が高まっている昨今でことさら重要だ。さまざまなメディアからの出演依頼が続く、「アルムナイ」についての第一人者として知られる鈴木仁志さん(株式会社ハッカズーク代表取締役CEO兼アルムナイ研究所研究員)。その鈴木さんによる、「HRオンライン」連載「アルムナイを考える」の第7回をお届けする。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)

>>連載第1回 「退職したら関係ない!」はあり得ない――適切な「辞められ方」「辞め方」を考える
>>連載第2回 誰もが明日から実践できる「辞め方改革」が、あなたと企業を幸せにする理由
>>連載第3回 「辞め方」と「辞められ方」――プロサッカークラブに見る“アルムナイ”の大切さ
>>連載第4回 “出戻り社員”が、会社と本人を幸せにする理由と、お互いが成功する方法
>>連載第5回 内定辞退者や早期退職者に対する“負の感情”が減る「辞め方改革」とは?
>>連載第6回  「急がば回れ」の姿勢が、“アルムナイ採用”をしっかり成功させていく

「アルムナイ」について、肯定的・否定的な意見がある

 私が会社を創業した2017年頃、「アルムナイ」という言葉は多くの人にとって耳にしたことがない未知のものでした。「在る(アル)の? 無い(ナイ)の? どっちなの?」と言われたり、「アムナイル? EXILEかよ!」と笑われたりすることもありましたが、最近では「アルムナイ、聞いたことがある」と言ってくれる方が増えてきました。

 学校の卒業生や出身者を意味する「アルムナイ」という言葉は、日本と比べて終身雇用などの文化が弱く、雇用の流動性が高い欧米を中心に企業の退職者に対しても使われることが一般的になりました。人的資本経営を強化する日本においても注目度が高まっていて、退職者同士、そして、企業と退職者が“卒業後”も繋がりを継続するための取り組みが日本でも広がってきています。今年2024年1月にはテレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」でも特集され、「アルムナイ」という言葉の認知は高まってきています。

 新しい言葉や概念が認知される過程にはさまざまな反応が伴います。異なるバックグラウントやニーズを持つ人々が、それぞれの立場から意見を述べるのですから当然のことでしょう。全面的に肯定的なものや、逆に否定的な意見、総論賛成だが各論反対のような意見もあります。アルムナイについても例外ではありません。SNSなどでもさまざまな意見があり、多くの肯定的な声が飛び交う一方で、否定的な意見もあります。

 そうした状況のなか、「アルムナイ領域で事業を展開する企業の経営者(私・鈴木仁志)として、否定的な声をどう思っているのか?」と聞かれることが増えてきました。

 私の率直な答えは「悲しい」という感情です。

 私たちは「退職“だけ”を理由に、退職者が裏切り者として排他的に扱われることがないようにしたい」という思いをもとに、企業とアルムナイが、退職後も、お互いがパートナーやファンやサポーターとして関係を続けるかたちを目指しています。この数年で、企業の持つ「退職者=裏切り者」という見方は大きく変化しました。その一方で、違うかたちでの「排他的」な見方が表面化し、否定的な声の多くはそれを表していると、私は考えるからです。