内定辞退者や早期退職者に対する“負の感情”が減る「辞め方改革」とは?

「人的資本経営」のカギを握る「アルムナイ」。企業が自社の退職者である「アルムナイ」とどのような関係を築いていくかは、人材の流動性がますます高まるこれからの時代において重要だ。アルムナイ専用のクラウドシステムを提供するなど、アルムナイに関する専門家である鈴木仁志さん(株式会社ハッカズーク代表取締役CEO兼アルムナイ研究所研究員)が、企業の「辞められ方」、従業員の「辞め方」を語る連載「アルムナイを考える」――その第5回をお届けする。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)

>>連載第1回 「退職したら関係ない!」はあり得ない――適切な「辞められ方」「辞め方」を考える
>>連載第2回 誰もが明日から実践できる「辞め方改革」が、あなたと企業を幸せにする理由
>>連載第3回 「辞め方」と「辞められ方」――プロサッカークラブに見る“アルムナイ”の大切さ
>>連載第4回 “出戻り社員”が、会社と本人を幸せにする理由と、お互いが成功する方法

「別れ」が発生するたびに負の気持ちが生まれる

「全ての学生が将来のお客さんになる可能性があると考えて、当社のファンになってもらえるように接してください」――面接官などの立場で自社の新卒採用に携わったことがある人であれば、経営層や人事担当者から一度は耳にしたことがある言葉ではないでしょうか。

 採用する企業側は、決まった採用枠数を超える人数を採用することは難しく、候補者となる学生側は、最終的に入社する一社を選ぶ必要があるという採用の特性上、企業と学生の間で多くの「出会い」だけでなく、多くの「別れ」が発生するのは当然のことです。また、言うまでもなく、採用は企業と個人の関係の始まりであり、終わりではありません。採用して入社したら、その後は定着してほしいと企業側が願うのは、当然、理解できることですが、厚生労働省の調査では新卒採用入社者の3割以上が3年以内に退職していることが明らかになっています*1 。この新卒採用入社者の“入社後3年以内離職率”は業種・規模・学校種別によって大きく異なり、従業員規模で見ると1000人以上の企業の退職率は30人未満の企業の半分以下になりますし、業種や学校種別で見ると、宿泊業・飲食サービス業における高卒入社者の“入社後3年以内退職率”は6割に上ることからも、入社後も多くの「別れ」が発生していることがわかります。

*1 厚生労働省 新規学卒就職者の離職状況を公表します 参照。

 採用の特性やこのような市場動向から見ても、新卒採用における入社前の辞退や入社後の早期退職は、ほとんどの企業に起こる事象であることは明白です。一方で、企業の採用・人事担当者が、選考辞退や内定辞退、そして、早期退職を避けたいと考え、「別れ」が発生するたびに負の気持ちが生まれてしまい、結果として元候補者を「ファン化」できていないケースも多いのではないでしょうか。今年度(24卒生対象)の新卒採用が佳境を迎える中、今年も多くの「別れ」が生まれるでしょう。企業側はこのような感情にどのように向き合い、どのように行動するのが良いのでしょうか。

 新卒採用における「別れ」からくる負の感情の大きさは、大きく二つの要因の影響を強く受けます。一つ目は、選考が始まったばかりの早めのフェーズなのか、内定後の辞退や入社後の早期退職という遅めのフェーズなのか、という「経過時間」です。時間が経過すればするほど、企業側が費やした時間や金銭的な投資は大きくなり、「次の選考に進んでくれるだろう」「内定を受諾して入社してくれるだろう」「退職しないで残ってくれるだろう」という期待値も高まります。結果として、会社説明会に参加しただけの学生に選考を辞退されるのと、内定受諾後に辞退されるのでは、後者のほうが圧倒的に「相手にこんなに投資をしたのに」という負の感情が強くなりがちです。