“パラレルキャリア”の効果と効果最大化のために個人と組織に必要な姿勢

働く者一人ひとりの「キャリア」がいっそう重視される時代になった。個人が職業経験で培うスキルや知識の積み重ねを「キャリア」と呼ぶが、それは、ひとつの職種や職場で完結するものとは限らない。「長さ」に加え、キャリアの「広さ」も、エンプロイアビリティ(雇用される能力)を左右するのだ。書籍『個人と組織の未来を創るパラレルキャリア ~「弱い紐帯の強み」に着目して~』(*)の著者であり、40代からのキャリア戦略研究所・代表の中井弘晃さんは“パラレルキャリア”こそが、個人と組織を成長させると説く。前回「価値ある“パラレルキャリア”とは?広義の5タイプから考える副業との違い」に続く、中井さんの寄稿をお届けする。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)

* 中井弘晃著『個人と組織の未来を創るパラレルキャリア~「弱い紐帯の強み」に着目して~』(2022年10月/公益財団法人 日本生産性本部 生産性労働情報センター刊)

エンプロイアビリティの手段となるパラレルキャリア

「こんなことなら、もう少し前から役職定年や定年のことを真剣に考え、準備をしておけばよかった……」。そういった後悔の声をしばしば耳にします。こうした事態を避けるために40代以上の人にお勧めの実戦的な学び直しの手段が、パラレルキャリアです。ミドル・シニア(40代~50代)にとって厳しい時代を生き抜くためには「学び直し」が不可欠です。パラレルキャリアは学び直しの最強の手段だと私は思います。

 なぜなら、パラレルキャリアは、個人が本業組織内で培ってきた専門性を深める、あるいは、別のスキルを身につける機会をもたらし、加えて、どのような組織でも必要な基礎力、例えばコミュニケーション力を高める効果があるからです。

 パラレルキャリア実践の場は、社外であり、組織風土の異なる人たちとの集合体です。価値観も仕事の進め方も異なります。普段接することのない人たちとの協働作業を通じて、コミュニケーション力が磨かれます。さらには、職位の上下関係のない場での活動を通じて、リーダーシップも磨かれます。

 職場環境が異なり、価値観の異なる人(弱い紐帯)の行動や発言の中から、自身の将来のキャリアのヒントや成長のきっかけを得ることもあります。エンプロイアビリティの向上により、組織が定める一律の「年齢軸」ではなく、「自身の時間軸」でキャリアの方向性を決めることも可能となります。

 本稿では、個人に加え、組織にとっての効果や求められる姿勢も具体的に取り上げます。個人、組織双方に効果があるパラレルキャリアですが、効果を最大化するためには、個人の社外での活動に組織が理解を示し、その活動を組織に活かそうとする本気度がカギとなります。