英語とビジネスパーソン写真はイメージです Photo:PIXTA

「大量の暗記」という言葉に、拒否反応を示す人は多いだろう。英語学習においてもコスパやタイパを重視する人は、大量の英文を覚えて何の得になるのか? と鼻で笑うかもしれない。だがしかし、大量の暗記は、最新の第二言語習得論や脳科学研究などが示す正しい方向に沿っている。今回は、大量の暗記をベースにした猛烈メソッドを、現代に生きる多忙な私たちがまねて活用する方法を紹介しよう。筆者命名、その名も「パワー暗記」だ。(パタプライングリッシュ教材開発者 松尾光治)

トロイ遺跡を発掘したドイツの考古学者が
6カ月で英語をマスターした方法

「語学の達人」といえば必ずと言っていいほど名前が挙がるのが、ドイツの実業家で考古学者でもあったハインリッヒ・シュリーマンだ。トロイ遺跡を発掘したことで世界史に名を残した人物だが、貿易商としても成功し、十数カ国語を短期間で使いこなしていたことでも知られる。

 貧しい境遇から学校に行けたのは14歳まで。20歳で初めて取り組んだ外国語が英語であり、なんと6カ月で英語を習得し使いこなすようになったという。

 彼の外国語習得メソッドが、「音読を伴う暗記」による「大量のインプットとアウトプット」である。

 まず、インプット量がすごい。自伝によると当時、英語で書かれたベストセラー小説2冊を丸暗記してしまった。暗記の過程で音読をどのくらい行ったか、英語に関しては不明だが、ロシア語習得の際の音読量が参考になる。なんと、小説を丸暗記するために、ロシア語が分からないユダヤ人に薄給を渡し、毎晩2時間音読して聞かせたという。だから、英語の音読もこのくらい短期集中して大量に行ったと推測される。

 アウトプットについてはこう語っている。「つねに興味ある対象について作文を書くこと、これを教師の指導によって訂正すること、前日直されたものを暗記して、次の時間に暗唱すること」(『古代への情熱 - シュリーマン自伝』から。以降の引用も同様)。

 それだけではない。シャドーイングやリピーティングに近い訓練も行っていた。「できるだけ速くよい発音を身につけるために、日曜には定期的に二回、イギリス教会の礼拝式に行き、説教を聞きながらその一語一語を小さな声で真似てみた」(同)

 当時のその様子を想像して、「ずいぶん変な人物だと思われただろうなあ…」などと筆者は思ってしまったが、そんなことはどうでもいい。まさに、「意思あるところに道は開ける(Where there’s a will, there’s a way.)」を地で行っている。

 今回は、大量の暗記をベースにしたシュリーマンの猛烈メソッドを、現代に生きる多忙な私たちがまねて活用する方法を紹介しよう。筆者命名、その名も「パワー暗記」だ。次ページ以降で、パワー暗記の具体的なメリットと、暗記用素材の選び方や訓練の手順を、生成AIの活用も含めてお伝えする。