2023年7月1日、フランス・パリの凱旋門付近で デモ隊と衝突する治安部隊2023年7月1日、フランス・パリの凱旋門付近でデモ隊と衝突する治安部隊 Photo:EPA=JIJI

フランスでは6月に移民の子の少年が警察官に射殺された事件が起きてから、デモや暴動が続発した。ジャーナリストの増田ユリヤ氏は「日本では『やっぱり移民は問題だ』で終わってしまいがちだが、移民大国フランスでは20年近く試行錯誤を繰り返し、少しずつ前に進んでいる」という。池上彰氏が聞いた。(ジャーナリスト 池上 彰、増田ユリヤ 構成/梶原麻衣子)

年始からデモが続発
五輪ムードとは程遠いパリ

池上 2024年夏、パリ五輪・パラリンピックが開催されます。五輪は7月26日から、パラリンピックは8月28日からと開催を1年後に控え、日本での関連報道も増えてきています。パリ五輪は第1次世界大戦と第2次世界大戦の「戦間期」である1924年にも開催されており、ちょうど100年目に再び、同じ地で五輪が開かれることでも注目されていますね。

 でもパリは五輪ムードには程遠いのではないですか。

増田 パリは年始から「年金支給年齢引き上げ」を決めた政府に反対するデモが続発しており、私は3月下旬に続いて、6月6日にも現地取材に行きました。大規模なデモが起きるという情報があったからなのですが、実際に現地では鉄鋼業や農業など、各組合が呼び掛けて集まった人々が合流した、当初よりも小規模のデモが行われていました。

 ナポレオンのお墓があるアンバリッドから、プラス・ディタリー(イタリア広場)までのコースを行進するもので、この政府批判デモにはフランス国内の地方自治体の市長や副市長も参加していたんです。しかも、トリコロールのたすきをかけて。

池上 日本ではなかなか考えられないことですね。

移民系の人たちの怒りに火を付けた
警察官による少年射殺事件

増田 日本の多くの人はデモと暴動を同一視していて、「パリで大規模なデモ」というと、パリ中のそこかしこで暴徒や抗議者が店舗の窓ガラスを割ったり放火したりと過激な行為に及んでいる、と思っているのではないでしょうか。日本でパリの様子が報じられる際に使われているのは、デモでなく暴動の映像ということも多いです。

 6月27日にアフリカにルーツを持つ移民の子の少年が警察官に銃で撃たれ死亡した事件が起きてから抗議活動は激化しており、ベルギーのブリュッセルでも大規模な暴動が起きています。射殺された17歳の少年はこれまでにも窃盗などによる逮捕歴があり、今回も交通検問を逃れようと車を発進させたところ、撃たれた。これが市民、特に移民系の人たちの怒りに火を付けたのです。