韓国ソウル市のスーパーマーケットの塩の陳列棚(20223年6月30日撮影)韓国ソウル市のスーパーマーケットの塩の陳列棚(20223年6月30日撮影)。韓国では、福島原子力発電所が処理水を海洋放出すると食の安全に深刻な影響を及ぼすのではないかという懸念から、塩の価格が上昇している Photo:EPA=JIJI

今夏にも実施されるという福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出を懸念して、韓国で「塩の買い占め」が起きている。処理水の海洋放出は危険なのか。ジャーナリストの池上彰氏と増田ユリヤ氏が対談した。(ジャーナリスト 池上 彰、増田ユリヤ 構成/梶原麻衣子)

韓国の塩が3割近く値上がり
品切れするスーパーが相次ぐ

池上 今、韓国で「塩の買い占め」が起こっているそうです。価格も3割近く値上がりし、品切れするスーパーが相次いでいるとか。

増田 一体なぜ?

池上 この夏にも実施されるという福島第一原子力発電所の「処理水」の海洋放出を前に、「今のうちに安全な塩を確保したい」という消費者意識が働いているようです。

増田 なるほど、オイルショックやマスクの買い占めと同じで、「不安」が消費者を極端な行動に走らせているのですね。確かに中国・韓国はかねて福島原発の処理水の海洋放出に反対してきました。しかし両国も、原発の処理水を海洋に放出していますよね。

池上 はい。世界中の原発排水にはトリチウムという放射性物質が含まれています。経済産業省の資料では、福島原発のトリチウムの年間放出予定量が、液体で22兆ベクレル未満。一方、中国の陽江原発は112兆ベクレル、韓国の古里(コリ)原発は49兆ベクレルのトリチウムを海洋放出したと指摘しています(2021年)。

増田 すでにそれだけのトリチウムが海洋放出されているのに、日本の海洋放出をことさら危険視するのはなぜでしょうか。