【マンガで学ぶ】借金・相続…人間関係をズタズタにするお金の破壊力、正しく使いこなすために一番大切なことは?『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。借金や遺産相続などのお金のトラブルでは、ひとつ間違えると親兄弟や親友同士であっても人間関係が壊れかねない。第4回は、お金との「適切な距離感の保ち方」を学んでいく。

「金には近づくな!」

 投資デビューで手持ちの100億円の30億円をいきなり1銘柄に投じた主人公・財前孝史。主将の神代圭介は「すべては運で決まる」と突き放した投資観を伝えた後、運を生かすには戦略が欠かせないと説く。ヒントとして1学年上の月浜蓮が示したのが歴代の投資部の記録集。そこに手を伸ばした財前は「金には近づくな!」と悪霊(?)が叫ぶ幻覚を見る。

 投資の勉強の第一歩で財前は「そもそもお金って……いつの時代に誰が作ったんでしょうね」という根源的な疑問を発する。直前に挿入される悪霊の警告、「金のことは考えるな!」という幻覚のシーンとの対比で、財前の思考法のラディカルさが際立つ。

 多くの人は投資を始めるとなると、「お金を増やそう」と単純に考え、「どうやったら増やせるのか」とノウハウを求める。最初はそれでも良いのだが、どこかで「なぜ投資でお金が増えるのだろう」「そもそもお金とは社会でどんな役割を果たしているのだろう」と考えを深めないと、それこそ投資はマネーゲームで終わってしまう。

 拙著『おカネの教室』にサインを求められると、私はいつも「カネは天下の回りモノ!」と書き添える。このお気に入りの名文句は、「カネが回らなければ天下も回らない」とも読み替えられる。貨幣の円滑な流通抜きで現代社会は成り立たない。水や空気のように、不可欠なのに当たり前すぎて深く考える機会はあまりない存在。それが「金」だ。

たかがお金、されどお金

 そしてこのコラムの初回で書いたように、人類はお金全般にまだうまく適応できていない。うまく扱うには「お付き合い」が短すぎる上、あまりに強力なツールなので、人はお金に振り回されてしまう。正しく理解して使いこなせる人は本当に少ない。借金や相続などお金が絡んだ事象やトラブルは、親子や親類、友人との人間関係をあっという間にダメにしてしまう破壊力がある。

 金銭との付き合いで一番難しいのは距離の取り方だ。お金抜きでは生きていけない。だが、お金が人生の目的だと錯覚したり、持っているお金の多寡を人間の価値と同一視したりすれば、それは本末転倒だろう。

 私は適切な距離感は「たかがお金、されどお金」と言える世知を身に付けることだと考えていて、金融教育に携わる場面では、これをゴールに据えている。「されどお金」と言える金銭観とリテラシーを身に付けた上で、「たかがお金」と言い切れる人としての芯を崩さない。金銭忌避の根強い日本は「たかが」に偏りがち。金融教育などで「されど」側にバランスを取る必要はある。だが、「たかが」の気持ちを忘れてはいけない。

 この距離感の観点で、財前が悪霊から受ける「金のことは考えるな!」と「金には近づくな!」という警告は興味深い。投資をテーマにした漫画で、金のことは考えるな、という一見矛盾したメッセージの真意は何か。この謎めいた幻覚のシーンが『インベスターZ』という作品を通じた背骨になっていく予感がする。

「お金とは何か」と問う財前に、1学年上の月浜は130年前、投資部初代主将が書き残した格言集を与える。1ページ目にはたった2行の短い文句が並ぶ。

 いわく、

 金ハ人ナリ
 人ハ金ナリ

 さあ、財前はこれをどう読み解くのだろう。