なぜ人はキャンドルの灯に惹かれるのか?キャンドル・ジュン氏と日本キャンドル協会代表に聞くPhoto by Teppei Hori

なぜキャンドルの灯(あかり)は人に心地よさを与えるのか? 日本キャンドル協会代表の金指琢也氏と専務理事のキャンドル・ジュン氏に、キャンドルの魅力や活用法、キャンドル業界の課題、日本キャンドル協会が新体制となった理由などを聞いた。そこには今の時代を表すカギが隠されていた。(聞き手・構成・文/ダイヤモンド社編集委員 長谷川幸光)

星のまたたきや人の脳波、
キャンドルの灯との意外な共通点

 ここ数年でキャンドルの売り上げが伸びている。ロウソクやキャンドルを扱う業界大手のカメヤマでは、コロナ禍が始まる前の2019年度と、2022年度を比較すると、オンラインや店舗の売り上げは2倍、キャンドルのブランドによっては7倍のものもあるという(カメヤマ 執行役員 金指琢也氏)。

 海外でもこのような傾向が見られる。米調査会社The Insight Partnersによると、香りやスタイリッシュなパッケージが特徴的な「高級キャンドル」の市場は、2021年の3億7095万米ドルから、2028年には5億2528万米ドルに達すると予測。CAGR(年平均成長率)5.1%の成長を見込んでいる(参考:The Insight Partners『Luxury Candle Market Forecast to 2028 ―COVID-19 Impact and Global Analysis―』2021)。

 おもな理由はやはり、2020年に世界各地に広まったパンデミックだろう。外出自粛で在宅の時間が増えたことで、「おうち時間」を楽しむためのアイテムとして、手軽に非日常を味わえてリラックス効果も望めるキャンドルの人気が高まった。

「自宅内のインテリアを充実させた後に目をつけるのは照明です。棚に飾っていたキャンドルに火をつけてみたところ、ゆらぐ灯に癒やされてハマったというケースをよく耳にします。使い切ると寂しいのでまた欲しくなる。これまでインテリアとして活用されていたキャンドルが消耗品として活用されるようになり、リピート客が増加しています。客単価も倍になりました」(金指氏)

 そもそもなぜ、ゆらぐ灯は人に心地よさを与えるのか。灯されたキャンドルや煌々(こうこう)と燃える焚き火は、その背景がゆらゆらと揺れている。風や空気の温度の変化が原因となって空気の密度が変わり、見ている人の目に入る光の量がつねに変化しているためだ。こうした「ゆらぎ」は、予測できる度合いと予測できない度合いがほどよく混ざる「1/fゆらぎ」(えふぶんのいちゆらぎ)と呼ばれる性質を持つ。「f」は「frequency」(振動数、周波数、頻度)の頭文字で、変動の成分波の強さが1/fに比例することを表している。

「ゆらぎ」理論の研究者の第一人者である理論物理学者の佐治晴夫(さじ・はるお)氏は、こうした「ゆらぎ」を「温度、密度、振動数あるいは力など、いわゆる私たちが測定することができる物理量の値、すなわち『観測値』が統計的に見た巨視的な平均値の近くで変動する現象」と定義する(『ゆらぎの不思議』PHP研究所)。たとえば、ある原子が自由に動き回りたくとも、周囲の原子との相互作用によって自由に動くことができず、周囲からの作用を引きずりながら不自然な動きになってしまう。これらのせめぎ合いの結果として現れる動きが「1/fゆらぎ」だ。

 佐治氏によると、星のまたたきや小川のせせらぎ、そよ風、鳥の鳴き声や音楽、絵画の色調や濃淡など、自然界で私たちが「心地よい」と感じるものには、この「1/fゆらぎ」が関係しているという。人の脳波や心拍のリズム、血流の流れ、気持ちなどにもこの性質があり、これらが呼応するために心地よく感じるようだ。宇宙は約138億年前、小さなゆらぎから生まれ、この「量子的ゆらぎ」が「リトルバン」を引き起こし、さらに膨張して「ビッグバン」という大爆発が起こったとされる。そして銀河がつくられ、太陽や地球ができて、人類が誕生した。地球や人類がこのようにして「星のかけら」から生まれたと考えると、お互いのゆらぎが呼応することで心地よく感じるというロジックもなんだか腑に落ちる。

 ゆらぐ灯がもたらすリラックス効果を科学的に実証した国内の例もある。キャンドルメーカーのペガサス・キャンドルと岡山大学名誉教授(心理学)の三谷恵一氏による共同研究では、筋電位(肉体に流れる微弱な電位の積分値)と脳波の和の平均で「心身のストレス度」を計測。室内の電灯を消してキャンドルを灯すことで、キャンドルの灯がない状態や、ただ室内の電灯を消した状態よりも、人をリラックスさせ、ストレスを和らげることを証明している(参考:ペガサス・キャンドル「キャンドルの不思議なチカラ。」www.pegasuscandle.com/chikara/)。

 こうしたキャンドルの魅力を深掘りすべく、前述のカメヤマの執行役員であり、一般社団法人日本キャンドル協会代表の金指琢也氏と、昨年(2021年)7月に同協会の専務理事に就任したキャンドル・ジュン氏に話を聞いた。

キャンドルはコミュニケーションツールでもあり
人々がつながるプラットフォームでもある

――日本キャンドル協会はどのような活動をしているのでしょうか?

金指氏Photo by Teppei Hori

金指琢也氏(以下、金指) 一般社団法人の設立は2009年です。始まりは、キャンドルをハンドメイドで作るスクールを運営し、キャンドルアーティストの育成や資格の認定、資材の販売などをおもに行う団体でした。

 私が所属するカメヤマはロウソクやキャンドル関連の商品や原料を扱うメーカーなので、もともとキャンドル協会はその販売先という関係でした。キャンドル協会を立ち上げたオーナーとパートナーシップを組んで活動するうちに、日本のキャンドル文化を次のステージへ押し上げる段階に来たのではないかという話になったのです。

 それで設立から10年たったタイミングで代表理事を引き継がせていただき、「キャンドル文化の普及や啓蒙を行う」という理念を掲げました。キャンドルをつくるだけでなく、キャンドルを灯したり、「キャンドルのある風景」を通して人々がつながったりと、多くの人の日常を豊かにするようなライフスタイル全般の提案をしていきたいと思っています。そのためには安全に灯すためのノウハウも必要です。

 キャンドルというのはコミュニケーションツールでもあり、人々がつながるプラットフォームにもなります。より多くのかたに、安心安全にキャンドルを取り入れたライフスタイルを楽しんでいただけるよう、「日本キャンドル協会」の名称に見合う活動をめざしていきたいと思っています。

――新体制では、キャンドル・ジュンさん、歌舞伎俳優の尾上松也さん、ラジオDJのクリス智子さんらが理事に就任していますね。