利用状況を把握することで
課題と対策が見えてくる

 日本デジタルアダプション協会が目指しているのは、こうしたシステム利用における課題の解決だ。「そのためには、誰にとっても利用しやすい、使いやすいデジタルとは何なのかを明確にすることです」と高山氏。それが明確になれば、誰一人として取り残されないデジタル社会の実現に向けた道筋も明らかになる。

 高山氏は「デジタルアダプションという言葉の定義はあいまいです。チャットの使い方やユーザーインターフェースの改善などに特化したツールもありますが、私たちはあえて幅広く捉えて、ユーザーが新しいテクノロジーから最大の価値を引き出すことを学ぶプロセス全般を対象にしています」と語る。

 そのためにまず、システムの利用状況を可視化することが必要になる。松本氏が理事の一人に加わったのは、こうした考え方に共感したからだ。ラクスルグループでは22年2月からITデバイスやSaaSを統合管理するクラウドサービス「ジョーシス」の提供を開始している。「このサービスのコンセプトはデジタルアダプションに通じるものがあります」と松本氏は語る。

日本デジタルアダプション協会
理事
ラクスル
代表取締役社長CEO
松本恭攝1984年富山県生まれ。慶應義塾大学卒。A.T.カーニーを経て2009年9月に印刷業界の遊休資産を活用する「シェアリングエコノミー」というビジネスモデルを確立し、ラクスルを設立。22年よりジョーシス代表取締役社長を兼任。17年に「Forbes JAPAN」の「日本の起業家ランキング」で1位に選出される。

 従業員ごとのITデバイスと利用SaaSを管理し、コーポレートITとしての運用からセキュリティまでを自動化するジョーシスは、既存のIT資産の管理と同時に、使われていないSaaSも特定できる。どのSaaSが使われていないのかを可視化することは、デジタルアダプションの第一歩になる。

「メールやストレージなどのインフラ的なSaaSは常に使われているのに対して、営業支援など特定の業務に特化したSaaSは利用状況のバラツキが大きくなります。そうしたアプリケーションは競争力を左右するだけに、利用者に高度なトレーニングを施して使いこなせるようにするべきです」(松本氏)

 せっかく導入したアプリケーションが使いこなせていない状況は、まさに“宝の持ち腐れ”である。大企業のシステム活用の最前線で指揮を執ってきた亀山氏も「中小企業や地域の工場などにもこの問題が見られます。人員や体制が追い付かずにシステムを使いこなせていないケースがよくあります。協会の活動を通してそこを支援していきたいと考えています」と語る。