狂騒!半導体 #4Photo:NurPhoto/gettyimages

業績不振が続く半導体大手キオクシアホールディングスが、米ウエスタンデジタル(WD)との統合協議再開を模索している。凍結していた設備投資は再開する見通しだが、メモリー不況の長期化で財務は悪化しているもようだ。金融機関の債務の借り換えや追加融資は急務だが、WDとの統合案で打開の道を見いだすのは無理がありそうだ。ダイヤモンド編集部は、昨年に決裂したWDとの統合案を独自に入手。特集『狂騒!半導体』(全17回)の#4では、その内部資料を基に、資金繰り危機が静かに迫るキオクシアの内情に迫る。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

巨額投資を控えるキオクシア
財務厳しくWDとの統合案に固執

 2024年の年明け。キオクシアホールディングスの早坂伸夫社長は、米ウエスタンデジタル(WD)との統合交渉“再開”の要望を、大株主の米ベインキャピタルと、キオクシアに間接出資する韓国SKハイニックスに打診した。経済産業省にも要望は伝えたもようだ。

 キオクシアとWDの統合交渉は昨年10月末に決裂している。同社の資本政策に強い影響力を持つSKが同意しなかったためだ。

 キオクシア側が破談したWDとの統合交渉にこだわるのは、半導体メモリーの市況低迷が長引いて財務基盤が悪化しているからだ。23年4~12月期の連結最終赤字は2540億円。最終赤字に転落したのは4~12月期で2年連続となる。半導体メモリー事業の継続に必要な設備投資を控え、資金繰りが厳しさを増している。

 東芝のメモリー部門を分社して発足したキオクシアは、銀行からの資金調達に依存してきた。19年5月末には三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行から合計9000億円の借り入れと合計1000億円の追加融資で合意し、日本政策投資銀行には3000億円の優先株を発行している。

 今でも3メガバンクからの借り入れは数千億円規模の残高があるとみられる。キオクシアの内部事情に詳しい関係者によると「返済期限が24年の半ばに集中している」といい、借り換えや追加融資の交渉は必須だ。

 そうした中で経済産業省は2月6日、キオクシアとWDが合弁で運営するNAND型フラッシュメモリー工場の計7288億円の投資計画に、最大2430億円を補助すると発表した。補助金のうち929億円は、22年に決定した計画の変更だ。市況低迷で投資にブレーキをかけていたが、計画を刷新して巨額投資に乗り出す。

 ただ、補助金は投資を実行して検査を受けた後に支払われる仕組みで、すぐに現金が入るわけではない。巨額投資を実施するため、資金調達は急務だ。キオクシアは2月9日、主力の四日市工場の敷地をヒューリックに売却する契約を結んだ。売却後も土地を賃借して工場の運営を続けるものの、厳しい財務事情が伺える。

 キオクシアは金融機関を納得させるため抜本的な再建策を示す必要があるが、その手段が「WDとの統合」以外に見当たらないのが実態のようだ。

 だが、このままキオクシアがWDと統合に至っても、現状の苦境打開につなげるのは難しそうだ。むしろ、昨年の交渉の状況を振り返れば、キオクシアは経営の主導権を失う恐れがある。

 ダイヤモンド編集部は、昨年に破談した両社の統合案を入手した。それによると、両社の統合の内容は、WD側の株主に過半数の議決権を渡すことが前提となっており、キオクシア側に圧倒的に不利な条件で進められていたことがわかった。

 仮にキオクシアがWDの経営統合を進めれば、どんな結果をもたらすのか。次ページでは、決裂した統合案の詳細を明らかにする。