なんと、彼が投資詐欺を働いていたのです。それを教えてくれたのは、僕が彼に紹介した歯科医さんでした。その歯科医さんは、彼が勧める事業に投資をしたのですが、いつまでたってもその事業がうまくいかない。そして、彼と連絡すらもとれなくなったといいます。要するに、お金だけ集めて“ドロン”していたわけです。

 その歯科医さんに彼を紹介したのは僕ですから、責任があります。だから、歯科医さんに深くお詫びするとともに、彼を紹介した方々全員に事情を報告したうえで、注意を呼びかけました。

 そして、彼の居場所を突き止めるべく全力を上げましたが、僕の力ではどうにもなりませんでした。無念でした。それに、彼に裏切られたのは、とても悲しいことでした。歯科医さんをはじめ被害者のみなさんは、僕なりの誠意を認めてくださって、それまでと変わらずお付き合いを続けていただくことができましたが、あのとき、ご迷惑をおかけしたことについて、今でも心苦しく思っています。

「テイカー」が紛れ込むと、
コミュニティが崩壊する

 要するに、彼は典型的な「テイカー」なのです。
「テイカー」とは、「自分の利益のためだけに、人から奪おうとする人」のこと。彼のような「人を騙して、利益を得ようとする人」は、「テイカー」の典型というべきでしょう。

 そして、「テイカー」が自分のコミュニティに紛れ込むと、これまで積み上げてきた「影響力」は脆くも崩れ去ってしまいます。なぜなら、「自分の利益のためだけに、人から奪おうとするテイカー」と付き合えば、僕からも、僕のまわりにいる人たちからも「奪おう」とするからです。その結果、僕と付き合ってくれている「ギバー」の人たちも、僕のコミュニティからどんどん逃げていってしまうからです。

 これは、恐ろしいことです。
 僕は、目の前の方に「親近感」「信頼」「交換」「応援」といった感情をもっていただくことで、「本物の影響力」を及ぼすことができる方々の「母数」をコツコツと増やしてきました。

 さらに、そうした方々をおつなぎすることで「ご縁」を広げることで、僕をハブとする「コミュニティ」が自然と成立。そして、この「コミュニティ」に入りたいと思う人が増えることで、より一層、僕という存在に「影響力」が備わる好循環が生み出されていったわけです。

 ところが、そこに「テイカー」が紛れ込むと、僕の「コミュニティー」に加わる方々を傷つけてしまううえに、僕に対する不信感をもつ人が増えていき、僕の「影響力」が削がれていってしまうでしょう。これまでコツコツと積み上げてきた「コミュニティ」そのものが、音を立てて崩れ去ってしまうに違いありません。それは、本当に恐ろしいことだと思います。

一対一で向き合って、
相手の「価値観」を洞察する

 だから、それ以来、僕は「ギバー」としか付き合わないし、「ギバー」としか時間を共有しないと決めました。そして、自分のコミュニティに「テイカー」を紛れ込ませないために、細心の注意を払っています。

 自分が主催する会食やゴルフコンペに呼んだり、どなたかをご紹介する前に、必ず、一対一でお会いして、じっくりとお話しを伺うようにしています。そしてお互いの価値観をしっかりと共有して、僕自身がその人を堂々と他の人にご紹介できる方かを自分自身に確認しています。

 もちろん、これは僕の主観によるもので、100%のスクリーニングをするのが難しいことは自覚しています。だけど、その人のライフストーリーに耳を傾けていると、「何かおかしい」と違和感を覚えることがあります。

 例えば、先ほどの元甲子園球児も、その後、よくよく思い返してみると、言っていることの辻褄があわないことがありました。よほどの頭のよい人でなければ、「嘘」の辻褄を完璧に合わせるのは難しい。どこかで破綻していたり、しっくりこない“気持ち悪さ”のようなものがあるのです。

相手の「交友関係」を確認する

 あるいは、その人の交友関係を聞くのも大切です。
 これは、かつて交流会に積極的に参加しているときに痛感したことですが、何で稼いでいるのかはっきりしない主催者の交流会に集まるのは、やはり、何で稼いでいるのかはっきりしない“怪しげな人物”が多いものです。そういう主催者からは距離を取っていったのですが、要するに、「類は友を呼ぶ」ということなのでしょう。相手の交友関係から、その人の「ひととなり」を感じ取ることはできると思います。

 このように、必ず、一対一でお目にかかって、僕のことも知ってもらったうえで、相手のライフストーリーや、相手が大事にしている価値観や信念などを伺います。そのプロセスで、相手の「人間性」に対する洞察を深めるのです。

 ここで問われるのは、いわば「動物的勘」「動物的嗅覚」のようなもの。「1+1=2」のように誰にとっても間違いのない「正解」のある話ではなく、僕の目には「テイカー」に見える人が、別の人には「ギバー」に見えることもあるでしょう。それだけ、微妙で繊細な問題なのです。

 だから、正直に言って、僕の判断が100%正しいかどうかはわかりませんが、大切なのは、僕と「ご縁」をつないでくださっている「ギバー」の方々を守るために、僕の責任において「テイカー」と思われる人物とは付き合わないことです。

「ギバーであろう」と努力する姿勢が大切

 そして、僕が「ギバー」だけが集まるコミュニティをつくることができれば、それが、僕に大きな「影響力」を与えてくれるに違いありません。
 なぜなら、「金沢さんが主催する会なら安心だ。大切な友人を連れて行こう」「知人を金沢さんに紹介したら、そこから素敵なご縁を広げてくれそうだ」「金沢さんが信用を置く人物なら、信用できるだろう」と思ってもらえるとすれば、それは僕という存在の「ブランディング」そのものであるからです。

 この「ブランディング」を強固なものにできれば、多くの「ギバー」の方々に安心して僕のコミュニティに加わっていただけますし、コミュニティ内の人的交流もどんどん活性化していきます。その結果、コミュニティそのものの「価値」はさらに向上して、その「影響力」を増幅していく。このような好循環が回り始めるのです。

 そのために重要なのは、人間は誰しも「自己中心的」であり、「テイカー」の要素があることを認めることだと思っています。僕だってそうです。そこを自分で認識しているからこそ、強いて「ギバー」であろうとする。この「あろうとする姿勢」がとても大事だと思うのです。そして、「ギバーであろうとしている人」同士が時間をともにし、仲間として力を合わせることで、「ご縁」は指数関数的に積み重なっていく。それを信じて、僕は日々、「ギバーであろう」と努めているのです(この記事は、『影響力の魔法』の一部を抜粋・編集したものです)。