トヨタ 史上最強#6Photo:Bloomberg/gettyimages

豊田章男氏の持ち株比率はわずか0.2%。にもかかわらず、創業家が巨大グループ組織を統治できる「秘密の仕掛け」がある。それが、二つの株式持ち合いの構図だ。『史上最強 トヨタ』の#6では、豊田家の尊厳を守り資本市場からのプレッシャーを阻むカラクリの正体を明らかにする。(ダイヤモンド編集部編集長 浅島亮子)

SUBARU株式取得で明らかになった
奥田元社長vs豊田家の確執

 トヨタ自動車の8代社長だった奥田碩氏は、富士重工業(当時。現SUBARU)の株式買い増し問題が持ち上がったときにこう言い放った。

「本当に、そんな価値のある会社かね」

 6代社長を務めた豊田章一郎氏(故人。豊田章男トヨタ会長の父)は、中島飛行機の流れをくむ名門の資本参加に賛成の姿勢を示していたようだ。だが、経済合理性を根拠に経営の意思決定を行う奥田氏は、首を縦に振らなかったという。

 その後、奥田氏と創業家との“考え方の違い”は決定的になっていく。奥田氏が、トヨタの経営と創業家である豊田家を切り離す「創業家分離」構想の持ち主だったからだ。

「豊田家出身者が代々社長を受け継いでいくことはおかしい。いずれ自動車事業はトヨタが手掛ける“事業の一つ”にすぎなくなる。持ち株会社体制へ移行し、新しい事業へ進出していけるように変わっていくべきだ」

 この奥田氏の構想は創業家の逆鱗に触れ、お蔵入りした。奥田氏が社長を退任してから20年余り。創業家の存在をないがしろにする“戦犯”であるとして、章男氏やその側近は奥田氏の名前をトヨタの歴史から消し去った。

 SUBARUに話を戻そう。章男社長時代に、トヨタはSUBARUの株式を段階的に買い増してきた。2020年にトヨタの出資比率は20%に達し、持ち分法適用会社となった。あるトヨタ関係者は、「その交渉過程で、章男氏側に20%は持ちたいという明確な意思があった」と打ち明ける。

 章男氏は章一郎氏と同様で名門企業好きだ。SUBARUの代表モデル「インプレッサ」がお気に入り。SUBARUを支配下に置くことに執着した理由に、奥田氏への反発があったかどうかは分からない。猜疑心の強い章男氏の基本姿勢は、「血は水よりも濃し」。意思決定の判断材料として、経済合理性よりも、血統や歴史、嗜好が優先されているようにも見受けられる。

 自動車メーカーからモビリティサービスカンパニーへ。ハードウエアからソフトウエアへ――。従来の自動車事業はトヨタが手掛ける事業の一つになりつつある。皮肉なことに、奥田氏が描いた通りの世界が広がっているのだ。

 モビリティ業界が大変革を迎える中、章男氏やその側近は、奥田氏とは全く異なる経営統治を実践してきた。

 創業家である章男氏のトヨタ株式の持ち株比率はわずか0.182%に過ぎない。それでも創業家が巨大組織を統治できる“秘密の仕掛け”があるのだ。豊田家のプライドを守り、資本市場や外国人株主などからの“過度なプレッシャー”を阻むことができるその仕掛けこそ、「二つの株式持ち合い」である。

 次ページでは、二つの株式持ち合いの構図について図版を使って分かりやすく解説する。トヨタグループ主要23社の持ち合いの構図からは、トヨタが経営を安定させるために実践している「三つの法則」が浮き彫りになった。また、トヨタが持つ主な「政策保有株式30社リスト」も全公開する。

 それでは、実際に“秘密の仕掛け”の正体を明かしていこう。