【年金問題】将来世代への負担押し付けが横行!政治は「耳の痛い話」から逃げるなPhoto:PIXTA
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

 2024年夏は5年に一度の年金財政検証の公表、25年はそれを踏まえた制度改正がそれぞれ予定されている。財政検証とは、年金財政のいわば定期健診である。将来の人口動態や賃金上昇率などの経済変数に一定の仮定が置かれ、今後100年間の年金財政の姿が描かれる。年金問題は、財政と制度体系とに大きく分けられる。本稿では、このうち年金財政の問題に焦点を絞り、その現状および検討されている改正案と、その論点を整理したい。

当初想定では23年度にマクロ経済スライドが終了

 直近で最大の年金改正は、2004年に実施された。主眼は年金財政の長期的な収支均衡の確保にある。収入については(1)17年度までの保険料率の段階的な引き上げ、(2)後述する基礎年金拠出金に対する国庫負担割合の3分の1から2分の1への引き上げ──が決まった。

 支出については、マクロ経済スライドが導入された。概略は次のような仕組みである。

 毎年度の年金額は、賃金上昇率によって改定されるのが本則である。これを賃金スライドという。本則では、年金の給付水準を表す所得代替率(=年金額÷賃金)は、分母の賃金と分子の年金額が同じ伸び率であるため一定である。

 04年改正では、この本則を一定期間棚上げし、賃金上昇率から「スライド調整率」を差し引いた値での年金額改定にとどめることとした。いわばインフレを用いた政府債務圧縮である。スライド調整率は「被保険者の減少率の絶対値+0.3」で定義される。一定期間とは、各財政検証を起点とし、100年間の年金財政の収支均衡が見通せるまでの期間である。

 当初の想定では、マクロ経済スライドが毎年度発動されることにより、所得代替率は当時の59.3%から23年度には50.2%まで低下し、役目を終えるはずであった。なお、わが国の所得代替率は図表1のように、分母が1人分であるのに対し分子は2人分であるなど特殊な定義となっている。

 ところが当初のもくろみに反し、マクロ経済スライドが初めて発動されたのは15年度であり、以降も19、20、23、24年度と計5回にとどまっている(図表2、注1)。その結果、直近の公表値である19年度の所得代替率は61.7%と、04年度に比べむしろ上昇している(注2)。20、23、24年度のスライド調整率もそれぞれ0.1ポイント、0.6ポイント、0.4ポイントと小幅であり(注3)、所得代替率はなお高水準で高止まりしているものとみられる。

 こうした事態は国庫負担の増加と、将来世代に残されるべき積立金(22年度末時点で277兆5,000億円)の前倒しでの取り崩しを招いている。国庫負担も赤字国債に依存しており、これも将来世代の負担である。

 マクロ経済スライドが思うように発動されないのは、「スライド調整率>賃金上昇率」の場合に年金額を前年度と同額に据え置く「名目下限措置」が設けられているためである。例えば、賃金上昇率0%、スライド調整率1%の場合、年金額はマイナス1%で改定されるのではなく据え置かれる。これは緊急避難措置のはずであったが、デフレの長期化によって恒常化した。