2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、ベストセラー『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売に。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材(起業参謀)の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要な「マインド・思考・スキル・フレームワーク」について解説していく。

テクノロジーの最新動向や知見を押さえるための、おすすめの勉強法とはPhoto: Adobe Stock

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 起業参謀には、スタートアップやテクノロジーに関する最新の知見にキャッチアップし、自らの言葉で解説できる能力が求められる

 スタートアップやテクノロジーは常に前進/進化し続けている。2022年末から生成AIが異常な盛り上がりを見せている。同様の市場全体にインパクトを与えるテクノロジーが、今後も次々と現れ市場はまた大きく変わっていくだろう。

 起業家にメンタリングを行う際、最新の情報を把握しておくことは適切な意思決定をサポートするために必要である。

「市場の魅力度評価」や「STEEP分析」のようなフレームワークで詳しく紹介するが、今後変化していく市場の変化を見立てていくことが重要だ。

 現在、市場を席巻しているスタートアップは技術的な流れを読んで、数年前から仕込んでいる。技術の成熟度がまだ低い段階から、その原理や、潜在的に市場にもたらすインパクトに注目することがポイントだ。

 また、ガートナーのハイプサイクル(Gartner Hype Cycle for Emerging Technologies)には、この3~5年後に起こる技術革新が示されている(下図)。2023年の図だが、毎年5月頃にアップデートされるので、キャッチアップできるとよいだろう。

得た知見は定期的にアウトプットする

 2023年現在黎明期であるXR(AppleのSpatial Computing)やWeb3.0にかかわるテクノロジーも今後、大きな動きがあるだろう(2006年のAWSの登場や2007年のiPhoneの登場や2009年のBitcoin/Blockchainの登場で世界がその後大きく変わったように)。

 起業参謀が、最新の情報やテクノロジー動向を提供することで、起業家への具体的な戦略・戦術の設計・構築の示唆へとつなげていくことができる。テクノロジーの最新情報や知見は、常にキャッチアップしていくことが重要だ。

 テクノロジーの知見を身につけるコツとしては、いきなり専門書を読むのは難しいので、解説動画や「マンガでわかるシリーズ」の入門書からスタートするのがおすすめだ。その領域の入門書籍を5冊ほど読み、基礎固めができてから、専門書を5冊程度読んでみるのだ。

 加えて、得た知見は定期的にアウトプットしていくことが肝心だ。ちなみに、私は2022年に「Web3.0のスタートアップの立ち上げ方」に際して、1200枚のスライドを作成した。その前段階には、Web3.0に関する論文や書籍に徹底的に目を通してインプットを行った。そして、最終的なアウトプットとし300名の前で有料セミナーを行った。そのアウトプットを意識しているからこそ、整理しながらインプットしていくことができた。

 テクノロジーの最新情報の知見を得ておくことで、起業家とのメンタリングの際に、DXやAIなどの「バズワード」で起業家が思考停止になっている場合、指摘できるようになる。

(※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。