限度額適用認定証があれば
さらに負担が抑えられる

 この高額療養費を、さらにお得に使うためのアイテムが「限度額適用認定証」だ。前述のように、70歳未満の人の高額療養費の所得区分は5段階に分類されているが、被保険者証には所得区分が記載されていないので、病院や診療所の窓口で患者の所得区分を判断することはできない。

 そのため、以前は、いったん医療費の3割を医療機関に支払った後で、健保組合に申請して限度額との差額を払い戻してもらう手続きが必要だった。この方法だと、申請してから還付金が戻るまでには3カ月程度かかるため、一時的な出費とはいえ、家計からの持ち出しが多くなってしまう。

 そこで、2012年4月に全面導入されたのが「限度額適用認定証」だ。

 限度額適用認定証は、高額療養費の所得区分を証明するもので、医療費が高額になったときに医療機関の窓口で提示すると、自己負担するのは最初から所得に応じた限度額まででよくなる。治療後に高額療養費の還付手続きをする必要はなく、家計からの持ち出しを抑えることができる。

 限度額適用認定証は、日常的な医療を受ける時は必要ないので、被保険者証のように自動的に発行されるものではない。継続して高額な医療費がかかる人や、入院や手術をすることが分かっている人は、事前に健康保険組合に申請して発行してもらうことをお勧めする。

 有効期限は原則的に1年間で、長期療養中の人などは、期限が切れる前に更新する必要がある。その点、マイナンバーカードを被保険者証として利用する「マイナ保険証」なら、限度額適用認定証を提示しなくても、高額療養費の適用が受けられる。

 受付時に、窓口に設置されている読み取り機械にマイナンバーカードを挿入し、自分の限度額情報を医療機関に提供することに同意すれば、自動的に高額療養費が適用される。わざわざ健保組合で限度額適用認定証を申請する手間が省けるので、利用を検討してみてもいいだろう。

 このように、高額療養費のおかげで、医療費の総額は高くなっても自己負担するお金は低く抑えられている。ところが、公的な制度は原則的に申請主義なので、自ら手続きをしないと利用できないことが多い。せっかくの制度も、その存在を知らなければ利用できず、本来支払う必要のないお金を負担することになってしまう。

 健康保険からは、高額療養費のほかにも、病気やケガで仕事を休んでいる間の所得を保障してくれる「傷病手当金」、妊娠・出産の費用をカバーできる「出産育児一時金」なども給付される。給付内容を確認しておくと、いざ病気やケガをしたときの経済的な不安は解消されるはずだ。

 社会人になると、「民間の生命保険に加入したほうがいいのでは?」と迷うかもしれない。だが、勤務先の健康保険に加入した時点で、保障のベースは作られる。就職したら、まずは自分が加入している健保組合からは、どのような給付を受けられるのかを確認してみよう。