すかいらーくPhoto:Bloomberg/gettyimages

日本初の共通ポイント、Tポイントをスタートさせたカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は加盟店開拓に本腰を入れ始める。加盟店の獲得戦略の柱が、業界大手を囲い込む「1業種1社」ルールである。長期連載『共通ポイント20年戦争』の#10では、排他的なルールの狙いに加え、足掛け4年にわたる、CCCでも屈指の難航ディールとなったすかいらーくの加盟交渉の内幕を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)

CCCはTポイント加盟店の開拓に本腰
「1業種1社」の排他ルールが戦略の柱

 2003年10月、ビデオレンタルチェーンのTSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は日本初の共通ポイント、Tポイントを立ち上げた。『Tポイント、開始初日の利用者は「たった300人」!?“生みの親”も絶句したスロースタート』で触れたように、開始からしばらくは利用者の伸びは鈍かった。

 それでも新日本石油(現ENEOSホールディングス)やローソンの店頭での積極的な告知によって毎日500~1000人は利用者数が伸びてくる。そして両社に遅れること半年、04年4月にTSUTAYAでもTポイントが使えるようになる。すると、一気に月間の利用者数は100万人を超え、毎月10万人以上が新たに利用するようになったのだ。

 さらなるTポイントの浸透に向けてCCCが本腰を入れたのが、加盟店の開拓である。Tポイントを使える“場”を増やせれば、利用者増だけでなく、Tポイントの知名度も高められる。ENEOSとローソンに続いて有力な加盟店を獲得する必要があった。

 Tポイントの「生みの親」であるCCC副社長の笠原和彦が考案した加盟店戦略の柱が各業界の最大手を囲い込む「ナンバーワン・アライアンス」である。ヒントは笠原がかつて視察した英国のポイント事業者、エア・マイルズにあった。同社は英蘭石油大手のシェルや、英航空大手のブリティッシュエアウェイズといった各業界の大手とのみ手を組んでいた。

 共通ポイントを構想した笠原が最も懸念していた点が強力なライバルの登場である。いち早く新たなビジネスを立ち上げても、資本力や顧客基盤を持つ大手企業が模倣してくれば、CCCの勝ち目は薄い。

 だが、業界の最大手と真っ先に手を組んでおけば、同じビジネスを立ち上げようとするライバルは、業界の2番手や3番手と組まざるを得なくなる。つまり、最大手の囲い込みこそ、ライバルつぶしの最も有効な手段となるのだ。

 これが「1業種1社」というTポイントの成長の原動力となった加盟ルールである。最初に元売り最大手のENEOSとコンビニエンスストア2番手のローソンを押さえ、Tポイントは有利なポジションをとることに成功した。

 実際、この排他的なルールは競合対策として絶大な効果を発揮する。Tポイントを脱退したローソンは10年にPonta(ポンタ)を立ち上げるが、加盟店開拓に苦戦する。例えば、元売り業界ではすでにTポイントがENEOSを囲っていたため、Pontaは当時5位だった昭和シェル石油(19年に出光興産と経営統合)と組まざるを得なかった。

 さらに、後の回で紹介するが、楽天(現楽天グループ)に移り、楽天ポイントの拡大を目指す際に、笠原も自らが講じたルールに苦しめられることになる。楽天はTポイントの牙城を崩すために、全く異なるアプローチをとる必要があった。それほどまでに1業種1社ルールは革命的だったのだ。

 笠原は、1業種1社ルールをベースに営業リストを作成する。当初、候補に挙がった企業は、ドラッグストアのウエルシアや、紳士服の青山商事、家電のエディオン、外食のすかいらーくや吉野家、スポーツ用品のアルペンなどだ。営業リストは都度更新されていったが、これを基に笠原は加盟店開拓を進めていく。

 ENEOSとローソンこそとんとん拍子に参画が決まったものの、その後の加盟店開拓はまさに難航続きとなった。笠原にとって最も苦労した交渉がすかいらーくである。4年にもわたるハードな加盟店交渉の内幕を明らかにしていく。