松本人志さんと吉本興業の初動は“最悪”、でも「文春砲=正義」の風潮に違和感のワケPhoto:Sports Nippon/gettyimages

絶対やってはいけない「致命的なミス」とは

 23年末から大騒ぎになっていたダウンタウンの松本人志さんの「性加害報道」が少し落ち着いてきた。

 既にいろいろなメディアや専門家が論じているが、報道対策アドバイザーという立場で一点だけ指摘させていただきたいのは、ここまで「大騒動」にしてしまった原因は、吉本興業(以下、吉本)と松本さん側の初動に致命的なミスがあったということだ。

 文春記事のタイトルに、2週連続で「恐怖の一夜」「恐怖のスイートルーム」とあることからもわかるように、今回、文春が争点にしようとしているのは、性加害の事実があったか否かなどではなく、「女性側が松本さんから恐怖を感じた」という心証面であることは明らかだ。

 しかし、そういう個人の内面の問題に対して、吉本と松本さんは最初の一手で「事実無根」という、ファイティングポーズ全開の法廷闘争話法で打ち返してしまった。

 これは我々のような「リスクコミュニケーション」を生業とする者からすると、最もやってはいけない「悪手」である。

 もし被害を訴える女性たちとお酒を飲んだことも、性的関係を持ったこともないなら、「事実無根」という回答で問題がない。しかし、そうではない場合、「一緒に飲んだ女性が心の中で感じたこと」までを頭ごなしに否定するということになるので、「他人の心情まで支配できると考えている傲慢な人間」という悪印象を社会に与えてしまう。そうなると、冠番組をいくつも持つ「テレビ界のスター」というイメージが急速に崩壊して、日本人が大好きな「正義のリンチ」の格好の餌食になってしまうのだ。

 さらに、このような対応がまずいのは、「敵」を一気に増やしてしまうということもある。

「被害者の訴えを頭ごなしに踏みにじる」というパブリックイメージが強く印象付けられると、「弱者」の味方である人権派ジャーナリスト、弁護士、そしてジェンダー平等などを訴える社会活動家の皆さんが即座に反応する。そして、ネットやSNSで続々と参戦し、反論できない松本さんをサンドバックのように叩き始めるのだ。

 つまり、吉本と松本さんは「恐怖を訴える人がいる」というリスクの初動対応の段階で、「人の心の痛みを無視する」という致命的なコミュニケーションのミスを犯してしまったのである。

 しかし、この「悪手」は、多くの企業でもやりがちだ。