世界で戦える体制に
国全体のガラガラポンを

日置 視野を広げて、日本の産業全体の今後の展望については、どう思われますか。

橋本 最近の変化で言えば、経済安全保障の状況は、日本にとってチャンスとしてとらえられると思います。中国はもちろんのこと、台湾にもリスクがあるので、たとえば半導体に代表されるように、自由主義諸国の中での日本の立ち位置は非常によくてこれはチャンスだなと。それは大いに生かすべきです。

 一方、懸念は、EVの進捗が厳しい日本の自動車産業です。10年前イギリスで自動車産業がなくなるとは誰も思っていなかったけれど、今日そうなってしまった。今日本の自動車産業がなくなるなんて、誰も思っていないけれど、果たして10年後、日本の自動車産業は大丈夫なのか。イギリスと同じことになるのではないか。

 だからこそ、もう少し、国内で事業をガラガラポンで整理・再編統合して、世界で戦える日本企業を業種ごとに二つ、ないし、マックス三つぐらいまでに抑える。今5、6社とか、10社以上あるようなところは、ある企業でこれをあげるから、これをちょうだいというように、ポートフォリオを整理して、集約していく。国内競争で消耗させずに、世界で戦えるように、国全体で考えて体制を変えていくしかないと思っています。

日置 どんな産業構造にしていくかは国策ですからね。ここに経済産業省のデータがありますが、業界によってPBRの水準は違います。課題も業種ごとに立体的だと思うので、そこは丁寧に細かくひもといて考えたほうがいい。

 確かに銀行などはPBRがとても低い。ただ、銀行のセクターは海外でもそこまで高くはない。であれば、その水準をどれぐらいのプレーヤーでどうつくるのかも考えなければならないし、1.0を大きく超えている業界については、海外並みにどう成長させるかを、各社がつぶつぶと似たような新規事業をするとかではなく、産業政策として考えなければならない。

大上 新しい日本の価値を創造することも必要だと思います。企業の長期ビジョンと一緒で、受け身でなく世の中はどう変わっていくか、その中で日本の価値は何で、自分たちの国はどうなっていくかという構想を政府がもっとアピールしてもよいと思います。また、一部の企業を除いて大企業がアーリー/ミドルステージのスタートアップに数百億を投資するのは難しいとすると、公的な資金だけでなく、海外からの投資も含めてリスクマネーを活用していかないと、新しい産業はなかなか生まれにくいと感じています。

西山 経済安全保障はなかなか難しい問題ですが、大きな外部環境変化の一つととらえると、変化はいろいろな機会にもつながるように思います。例えば、半導体で盛り上がる九州の話などを聞くと、日本経済、日本企業にいい意味で刺激を与え、いろいろな機会を提供するのではないかと感じます。

 また、日本には素材や部品に結構いい会社がありますが、グローバルで見た時に企業の規模が相対的に小さいので、業界再編を含めたM&Aによって、規模を拡大し、また海外の企業をしっかりグループに取り込んでいくことも必要かと思います。

 そうしたなかで、海外でマネジメントできるような人材をしっかり確保しつつ、海外でチャレンジできるような体制を作っていくといいと思います。

 そういう意味では、JTや東京海上ホールディングスは海外におけるM&Aで成功している代表的な日本企業であり、M&Aをベースに展開している海外事業の利益の構成比率がJTは7割ぐらい、東京海上は4割ぐらいになっています。また、買収したあと、被買収企業の幹部クラスにしっかり残ってもらって、海外事業の経営は彼らに任せながら、モニタリングをしっかりするという体制が機能しているようです。
企業財務の論客が激論【後編】世界で戦うための事業整理・産業再編を促す

日置 任せ切るためには、報告させなくてもこちらからいつでも状況を確認できる仕組みなどを前提とした自信がないとダメでしょうね。

橋本 JTは、海外企業に対する投資家としての立場としての目利きができている。それに加えて、自分たちがジャパンリージョンのビジネスとしてどうなのかという執行サイドと上場企業としてのIRを通した投資家からの見られ方の目も持っている。つまり、買収先に対する投資家の目と、自分たちを買ってくれる投資家の目の両方を持っているということですね。

日置 視点としては、今の日本のリソースをどう活かすかというところで、海外のプレーヤーを呼び込んで彼らにとっても成長の一助となる場を提供する方面の話がひとつ。ただし、「安い日本」を使われるだけになってはダメなので、誘致に一生懸命なのはよいのですが、経産省には是非、彼らの力を日本の成長に活かすしたたかさを発揮してもらいたい。

 他方、政策に仕上げるのが難しいこともあるのか、外で稼ぐ方面の話がちょっと不足している印象がありますが、こちらについては、各業種で再編を進め、企業数を絞り込み、無駄な消耗戦を回避し、合従連衡も含め戦略的にグローバルでの戦い方を考えていく。内外の両輪駆動で国としての産業構造をうまく転換させていくことがポイントかなと思います。

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