「脱炭素経営の行方は?」「スタグフレーションの可能性は?」米国有力コンサルティングファームの経営トップに聞くRich Lesser(リッチ・レッサー)ボストン コンサルティング グループ(BCG)会長。
2013年~2021年、同社CEO。CEO在任中に、BCGは2030年までに気候への影響をゼロにする(net-zero climate impact)という公約を掲げた。現在、世界経済フォーラム(WEF)のCEO気候リーダー同盟のチーフアドバイザーであり、包摂的な資本主義のための協議会の運営委員会など世界の主要機関のメンバーを務める。CEO時代は米ビジネスラウンドテーブルやWEFの国際ビジネス評議会に主要メンバーとして参画した。ミシガン大学化学工学部卒業。ハーバード経営大学院経営学修士(ベーカースカラー)。Photo by Ryo Otsubo

2050年前後にカーボンニュートラルを達成し、地球の気温上昇を産業革命前比1.5℃に抑えることは、人類が解決すべき最重要の課題だ。2030年までに温室効果ガスの排出量を2010年度比で45%削減すると世界は合意している。しかし、各国の削減目標の合計は1%未満(2020年末時点)と、現実は厳しい。そんな中、脱炭素を強力に推進するのが世界有数のコンサルティング会社であるボストン コンサルティング グループ(BCG)だ。本稿の前編では、会長のリッチ・レッサー氏にその主旨や施策、世界の潮流、そしてロシアのウクライナ侵攻に端を発するスタグフレーション危機の可能性などを聞いた。(聞き手/ダイヤモンド社 ヴァーティカルメディア編集部 編集長 大坪亮、構成/富岡修)

自社のCO2排出量よりも
多くを除去することを公約

――ボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)のCEOだった2020年に、貴社は2030年までにカーボンニュートラル(CO2の人為的な排出を実質ゼロにする。注:CO2以外の温室効果ガス全般を対象にすることもあるが、本稿ではCO2として表現する)の実現を公約に掲げました。率先して取り組む理由を教えてください。

 リッチ・レッサー(以下、レッサー) 地球の温暖化を食い止めるため、世界中のすべての企業がカーボンニュートラルを目指すことは必須です。もはやカーボンニュートラルをやるか、やらないかではなく、どうすれば最も早くできるかを考えることが大切な段階です。

 当社は世界中の企業、政府、国際機関などをクライアントに持つ戦略コンサルティングファームです。当社が培った戦略提案力や人的ネットワークなどのリソースを活用することで、地球の最重要課題である気候危機に対して最も効果的に貢献できるポジションにあると考えています。

 まず、2030年までにカーボンニュートラルを、その後はクライメートポジティブ(自社の排出量よりも多くのCO2を除去する)を達成するという公約は有言実行で、良い手本となるべく取り組んでいます。公約実現に向けてのプランを策定し、多額の投資をしていきます。

――具体的にはどのように取り組んでいますか。

 当社のようなオフィス活動を中心とする企業にとって、スコープ1(自社の事業活動に伴うCO2排出量)やスコープ2(自社が調達した電力などのエネルギーを生み出すためのCO2排出量)のカーボンニュートラルを達成することは比較的容易です。自社で排出されるCO2の削減に加えて、削減しきれない分を再生エネルギーの導入などで補います。実際、スコープ1とスコープ2については、現時点でネットゼロを達成しています。

 しかし、スコープ1とスコープ2の削減だけでは不十分であると考えています。なぜなら、当社の事業活動から排出されるCO2の多くはスコープ3(サプライチェーン企業や顧客のCO2排出量)からのものだからです。2018年のデータによると、サプライチェーンも含めたCO2排出量の78%が、出張時などに利用する航空機由来のもので、原油を精製して得られる成分が主体のジェット燃料に由来します。

――航空機利用時のCO2など、スコープ3はいかに減らすのですか。

 大きく3つあります。第一に、出張自体を減らし、航空機利用の機会を減らすことです。第二に、カーボンニュートラルなバイオジェット燃料などで運航する航空機を利用することです。そうした航空機の運航が少なければ、当社自らがバイオジェット燃料を購入することも検討しています。こうしたやり方を合わせて、2025年までに社員1人当たりの排出量を約50%削減(2018年比)することを目標に掲げています。第三に、大気中からCO2を回収・貯留するCCS(Carbon Capture Storage)などの技術や天然由来のソリューションなどに投資して、それらを活用することです。当社は、CO2排出量1トン削減するために約80ドルを投資することを検討しています。

 私たちは、カーボンニュートラル経営の一つのモデルを示したいのです。