「USスチール買収」摩擦は特殊ケース、日本企業の北米投資10兆円はアジア向けの2倍以上Photo:NurPhoto/gettyimages

アジアから再び米国M&Aに勢い
2023年の北米直接投資10兆円超

 日本企業による海外企業のM&A(企業の合併・買収)が活発化している。米国にいる筆者も、日本企業のM&Aを通じた米国企業の買収のニュースを頻繁に聞く。最近、最も報道されているのは、やはり日本製鉄による米国の大手鉄鋼メーカー「USスチール」の買収だ。

 4月12日にはUSスチールの臨時株主総会が開かれ、投票総数の98%以上が賛成して日本製鉄による買収案が承認された。だが労働組合は強硬に反対し、大統領選挙を控えて政治問題化している。

 USスチールの本拠地、ペンシルベニア州をはじめ、大統領選の「激戦区」は、全米鉄鋼労働組合(USW)の組合員も多く、労組票を得ようとする思惑が先行する。

 国名「US」を冠にする大企業が他国企業に買収されるとあって、「阻止」を公然と掲げるトランプ前大統領だけでなく、バイデン大統領も「USW支持」の声明を発表。保護主義的な姿勢を強めるバイデン政権や世論との間であつれきを起こしている。

 雇用の削減や施設の閉鎖は行わないことなどを条件に交渉は進められているようだが、選挙の年とあって、この買収劇の終幕がどうなるかはなかなか見えそうにない。

 だが日本企業の米国投資でこうした難航は極めて例外だ。

 2023年の日本から北米向けの直接投資額は10兆1513億円と、中国などのアジア向けを2倍以上になる活況だ。

 アジアに一時、偏った投資を再び米国に向ける流れには幾つかの理由がある。