サントリー新浪氏の「45歳定年制」を議論する前に、本当に考えるべきこと写真はイメージです Photo:PIXTA

2024年春闘では大企業を中心に賃上げの「満額回答」が相次ぐ一方で、中小企業では「予定なし」の声も多く、賃上げに“温度差がある”のが実態と言えるでしょう。コーポレートファイナンスやベンチャービジネスが専門の保田隆明・慶応義塾大学総合政策学部教授に「中小企業の賃上げや採用の悩み」について、ソフトバンク社長室長をへて英会話スクールを経営する筆者が、話を聞きました。【前中後編の中編】(構成/ライター 正木伸城)

「人って雇ってみないと分からない…」
現役社長の深き悩み

三木雄信 賃上げや採用の悩みで言うと、わが社も大手企業から高度人材を一本釣りできるようにはなってきたのですが、これを大規模にやろうとするとかなり難しい。そもそも、何十人もの優秀な人材を定期的に採用するには、かなり仕組み化してやらなきゃいけない。それで正直なところ、人材って雇ってみないと分からないところがあるじゃないですか。うちの会社に合うか合わないか、期待したパフォーマンスかどうかって。

サントリー新浪氏の「45歳定年制」を議論する前に、本当に考えるべきこと保田隆明(ほうだ・たかあき)慶應義塾大学総合政策学部教授1974年11月生まれ。リーマンブラザーズ証券、UBS証券勤務後にSNS運営会社を起業。同社売却後、ベンチャーキャピタル、神戸大学大学院経営学研究科教授等を経て、2022年4月から現職。2019年8月より2021年3月までスタンフォード大学客員研究員としてアメリカシリコンバレーに滞在し、ESGを通じた企業変革について研究。上場企業の社外取締役、監査役も兼任。主な著書に『ESG財務戦略』、『コーポレートファイナンス 戦略と実践』等。博士(商学)早稲田大学。

 一昔前だったら、成果の上がらない社員を叱るとか、残業させてでも仕事を身に着けさせるとか、普通にありましたよね。それでもらちが明かなければ、左遷や転勤させるとか。けれど今、そういうことをやると完全にハラスメントです。今の企業は何よりホワイトさが求められる。

 米国なら「クビだ」という通告を恐れて頑張る一面があると思いますが、日本にはそれもない。だから、給料の高いローパフォーマーが会社に安住できてしまう環境がある。でもこれって、それなりに良い会社、頑張っている会社ほどはまるわなじゃないかなって思うんです。

保田隆明 それでは、「アップorアウト」の話をしましょうか。「社内評価」と社外での「市場価値」のギャップの話です。もし、市場価値は高いのに、社内ではあまり評価されていない人が、仮に自身の市場価値をきちんと知ることができたなら、それを口実に給与アップの社内交渉を持ちかけたりできるかもしれません。それで、交渉して「アップしてくれない」と分かったら、場合によっては「アウト(=会社を辞める)」も選択する。アップorアウトで社員が強く出られるという意味で、働く個人が自らの市場価値を知ることは重要です。