牛写真はイメージです Photo:PIXTA

現在、畜産物のための穀物飼料量が増えすぎて、人間の食べる分の穀物を圧迫する状況になっている。この問題を解決するには、先進国の住民が意識的に消費量を節約するのと、世界中の国が穀物の生産量を増やすしかない!?本稿は、高橋五郎『食糧危機の未来年表 そして日本人が飢える日』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

畜産物の飼料が
人間の穀物を圧迫

 畜産物は肉・酪農製品・卵・油脂を供給する、人間になくてはならない食料である。人口の増加とともに生産量もうなぎ上りに増えてきた。

 世界生産量(2019年)は、以下の通りである。牛肉生産量7200万トン、主産国はブラジル・中国・アメリカ。豚肉は1億1000万トン、主産国は中国・ドイツ・アメリカ・ベトナム。羊肉が1600万トン、主要国は中国・オーストラリア・インドなど。

 鶏肉1億3000万トン、主産国はブラジル・中国・アメリカ。鶏卵は8900万トン、主産国はブラジル・中国・アメリカ。バター・ギーは1200万トン、主産国はインド・パキスタン・ニュージーランド。牛乳が8億6500万トン、主産国はアルゼンチン・オーストラリア・ブラジル・中国・インド・ニュージーランド・アメリカである。

 これら畜産物を生産するためにはトウモロコシ・大豆・ソルガム・コメ・小麦などを原料とする飼料が必要だが、1単位の畜産物を生産するのに必要な飼料はあらゆる畜産物を平均すると3単位程度である。100グラムの肉を食べれば、300グラムの飼料穀物を食べたことと同じだという意味である。

 世界の2020年の飼料穀物投与量は10億2000万トン(FAOSTAT)。牛乳生産向け飼料穀物の量は、国によって投与法に大差があり推定困難である。

 もし今後、人口増加に伴う畜産物需要がそのまま増え続けると、飼料穀物は、人口がいまの1・25倍の100億人になるとされる2059年には、約13億トンがそのために必要になってもおかしくない。

 筆者の長期予測(後出の図表11)によれば、人口が100億人になる頃の世界の穀物生産量は約36億トンにすぎない。それなのに、畜産物にその30%の13億トンを与えてしまうと、人間には23億トンしか残らない。さまざまな用途を含めて1人当たり230キログラムにしかならず、家畜栄えて人間滅ぶ、である。

「図表11 飢餓人口・穀物生産・世界人口の予測」(本書より)「図表11 飢餓人口・穀物生産・世界人口の予測」(高橋『食糧危機の未来年表 そして日本人が飢える日』より) 拡大画像表示

 家畜に13億トンもの穀物を分け与えることは元来不可能で、10億トンにとどめたとしても、世界人口が80億人・副産物を含む穀物生産量約30億トンの現在でさえきついくらいである。この人口規模で、世界の人々すべてが飢餓から脱出できるのに必要な穀物量は40億トン近くに達する。ところが実際は約31億トンしかないのだから、これ以上飼料に回す余裕はないはずである。飼料に回している量が10億トンとしてもそのいくらかは、人間の食料用に取り戻さなければならないくらいである。