巷では「DX」「DX」の大合唱が呪文のように続いています。しかし現場からは、「仕事が増えただけで売上はなかなか上がらない」という悲鳴が聞こえてきます。そんな悲劇を解決すべく、1000社以上の問題を解決してきたITコンサルタント・今木智隆氏が書き下ろしたのが『DX沼からの脱出大作戦』(ダイヤモンド社)です。本連載では、さまざまなデジタルの「あるある」失敗事例を挙げながら、なぜそうなってしまうのか、どうしたら問題を解決できるのかをわかりやすく丁寧に解説していきます。ECサイトやSNSの運営に携わっている現場の方、デジタル広告やデジタルマーケティングに関わっている現場の方はぜひご一読ください。

あなたの会社はやってませんか?「DX化」のあるある悲劇Photo: Adobe Stock

「DXの目的化」が生む、あるある悲劇

 仕事において「手段の目的化」は珍しくありませんが、DXにおいてはこの傾向が一層顕著なようです。
 1例を挙げるなら、「自社サイトにチャットボットを入れてみた!」です。顧客にとって質問を書き込むこと自体が面倒なのに、その上まともな返事が来ない。これでは顧客をイライラさせるだけで、逆にクレームが殺到。顧客行動を妨げることになってしまった……という話はよく聞きます。
 道具を入れるだけで売れるなんてことはありえません。コミュニケーション設計をまずちゃんとしましょう。チャットに聞かないとわからないようなコンテンツを作っていることのほうを先に問題視すべきです。

 あるいは、コンテンツマーケティングで集客が増えたが、売上はなぜか完全に横ばい……。これもよくあるパターンです。
 誰でもいいから連れてくればいいというわけではありません。誰にどんな集客をしたら売れるのか、という設計が抜けているからこうなるのです。商売に繋がるコンテンツ・商売に繋がるキーワードを先にきちんと特定しましょう。

 デジタルで何か新しいことをやれば、今までにない客層が取れる! という発想も要注意です。
「百貨店のVRイベント」「保険会社が作った健康アプリ」……作るのはそれなりに大変だと思いますが、そもそもそんなものに誰が興味を持つのでしょうか? 努力する方向が間違っています。顧客目線が完全に抜け落ちているとしか言いようがありません。

「そろそろ大規模にホームページのデザインとか変更して、新鮮味をアピールしよう」なんて、いかにもアナログ頭の管理職が言い出しそうなことですよね。
 しかしこれも十中八九失敗します。顧客が変化したわけでもないのに見た目だけ変えると、なじみ客まで失うものです。
 老舗店舗の看板の色を、毎年変えるおバカさんはいませんよね? なのに、デジタルになるとなぜかあれこれ無駄なことをしてしまう人が多いのです。

※本稿は『DX沼からの脱出大作戦』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。