日本企業がグローバルで勝ち残っていく上で、法務部門の戦略的な再構築は喫緊の課題だ。ウェブセミナー「Legal Agenda 2024 法務機能の高度化とリーガルオペレーションズの実践」(ダイヤモンド社ビジネスメディア局主催)では、欧米で先行して浸透する「リーガルオペレーションズ」に着目し、経営に法務を組み込んで企業価値の最大化を図る道を探った。各セッションでは、戦略的な法務部門の在り方や必要なマインドセット、人材育成などについて、知見が示された。その模様をダイジェストでレポートする。

日米で大きな差。CLO/GCは「経営者の相談役」である

 本セミナーは、日立製作所執行役常務CLO兼ゼネラルカウンセル兼Deputy CRMO兼オーディット担当の児玉康平氏と、日本CFO協会シニア・エグゼクティブの日置圭介氏の基調対談で幕を開けた。「日本企業がグローバルで戦うための法務部門の在り方とは」をテーマに、日置氏の質問に対して、児玉氏が答える形でセッションは進行した。

 日立製作所の法務部門を率いる児玉氏は、1997年から2011年までの14年間、米カリフォルニア州に赴任し、法務の最前線に身を置いた。同時に、当時のシリコンバレーの文化から、アントレプレナーの発想も学んだという。児玉氏は、自身の法務に対する考え方は、この米国での経験が土台になっていると冒頭で述べた。

日立製作所
執行役常務 CLO 兼 ゼネラルカウンセル 兼 Deputy CRMO 兼 オーディット担当
児玉康平 氏
プロフィール:日立製作所 執行役常務。2018年よりゼネラルカウンセル、20年よりチーフ・リーガル・オフィサーも兼務する。その他、コンプライアンス、監査部門の責任者ならびにリスクマネジメントの副責任者も兼務。14年間にわたって米シリコンバレーにて法律実務を徹底的に学び、世界のビジネスシーンで互角に戦える法務部門、日本法務の評価・地位向上につながる法務部門を構築すべく改革に取り組む。また、グローバルスタンダードのコンプライアンスプログラムを紹介・導入。

 日立製作所の法務部門の責任者となった児玉氏は、「ワン日立法務グループ」を掲げて改革を実行。地域ごとに法律も商習慣も異なることを踏まえて日本チームにあった海外法務グループを廃止し、ワングループで世界中の法務を束ねる体制を整えた。そして、グローバルスタンダードにキャッチアップした法務を目標に、「国際的な企業間交渉に欠かせないネゴシエーター(交渉人)人材の育成」にも力を入れてきた。

 児玉氏は、日米の法務の在り方の比較から、なぜ日本企業でCLO(Chief Legal Officer、最高法務責任者)がうまく機能しないかについて説明。日米の法務への意識の差を以下のように表現し、危機感を示した。「米国では、すでに私が赴任した97年の時点で、CLOやGC(General Counsel、法務担当役員)は経営の一翼を担う存在として確立されていました。一方で日本では、CLOやGCに関する議論が始まったのはつい最近のことであり、ギャップをいかに埋めるかが喫緊の課題です」。

 CLOは、CxOの一翼を法務領域で担う経営の中核メンバーだが、この存在を理解するには、米国では「GC」とも呼ばれてきた歴史的背景を知る必要がある、と児玉氏は言う。

 次ページからは、日米におけるCLOおよび法務部門の役割のギャップや、それを乗り越えてグローバルスタンダードに資する法務部門を構築するためには何が必要なのか、基調対談を通して明らかにしていく。