仕事、恋愛、人間関係……。しんどいことが続き、「すべてをリセットしたい」と思う人も少なくないだろう。「悩んだときに心が軽くなる本」として、幅広い年代に人気の『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』(クルベウ著 藤田麗子訳)は、自分より他人を優先してしまう、我慢しがちな人におすすめの1冊だ。近年では著名人が自ら命を絶つ報道などを目にする機会が増え、報道を見た人への影響も懸念されている。精神科医で禅僧の川野泰周氏に本書の内容をふまえて、「生きていることがつらくなってしまったとき」について話を聞いた(取材・構成/林えり、文/照宮遼子)。

【精神科医が教える】死にたいぐらいつらくなったとき、どうすればいい?Photo: Adobe Stock

「死にたい」と一度でも考えたことがある人は少なくない

──仕事や学校、人間関係、恋愛関係でしんどいことが重なると、生きていること自体が疲れたというような状況に陥ることもあります。「死」が頭をよぎった経験のある人は少なくなさそうです。

川野泰周(以下、川野):そうですね。実際に、2022年に1万5千人近くの若年層(18歳~29歳)を対象におこなった聴き取り調査によれば、約45%の人が希死念慮、つまり「死にたい」と考えたことがあると回答しました。

しかもそのうちの4割の人が、実際に死ぬための物や場所を準備したことがあることがわかっています。

現代において、もはや大半の人にとって、「自ら死を選ぶ」という選択肢は縁遠いものではなくなってきているのかもしれません。

「つらさ」を周りの人に共有して

──こうした死の衝動を踏みとどまるには、どうしたらいいでしょうか。

川野:それはとても難しい質問で、「こうすればいい」という教科書的な答えはできません。

ただ、ここで命をつなぎとめてくれる1つが、「社会的なつながり」なのではないでしょうか。

「本当につらい……」と思ったときにそれを言葉で示すことができる誰かがいるか。

そのことは非常に大切なポイントになると思います。

──周りに気持ちを打ち明けられる人がいるかどうかが大きいわけですね。

川野:そうですね。2016年の国内調査によれば、自殺未遂者、つまり死には至らなかったけれど実際に自殺のための行動を取った人の70%以上が、「死にたい」と思った時に誰にも相談できなかったことがわかっています。

彼らがもし、誰かにその苦しみを打ち明けられていたら、そのような行動をとらなくてすんだ可能性もあるのではないかということです。

信頼できる人がそばにいない場合は、精神科医や心理カウンセラーに相談を

──気持ちを打ち明けられるような親しい人がいない場合はどうすればいいでしょうか?

川野:信頼して打ち明けられる人がいないという方のためにこそ、精神科医や心理カウンセラーがいます。

私の患者さんで、かつてうつ病で苦しまれた方が、「自分にとって命を絶つ行動をとるか、とらないかは本当にわずかな差でしかありませんでした。でも先生や心理士さんが寄り添ってくれて、『今日一日は好きな音楽でも聴いて過ごしてみようかな』と思えたんです」と話してくださったことがあります。

希死念慮を行動にうつすほんの少し手前、そのすんでのところで踏みとどまることができた、という体験を重ねていく。

そんな中で、次第に命を絶つ以外の、生きることを前提とした選択肢が見つかるきっかけになるのではないか、その手助けをするのが私たち精神医療の専門家なのだと思っています。