いきなり怒鳴られ、説明しようとしても聞いてもらえず、ただ相手の怒りが収まるのを待つ……。そんな「クレーム」を経験したことはあるだろうか。そのような取り付く島もないような状態であったとしても、相手の怒りのボルテージをコントロールしてクレームを解決し、しかも高確率にリピーターにする方法があるという。その方法を紹介しているのが、『クレーム対応 最強の話しかた』だ。著者はクレーム・コンサルタントの山下由美氏。いったいどのような魔法を使えば、怒り心頭のお客さまを納得させることができるのか。本記事では、本書の内容をもとにその方法を紹介する。(構成:神代裕子)

クレーム対応 最強の話しかたPhoto: Adobe Stock

怒っている相手にいくら説明をしても無駄

 お客さまからクレームを言われた際には、お客さまの話にしっかりと耳を傾け、謝罪し、時には理由を説明することで納得してもらう。

 こういった対応をマニュアル化している企業やお店は少なくないはずだ。

 しかし、『クレーム対応 最強の話しかた』の著者である山下由美氏は、それらの対応をすべて「NG対応」と指摘する。

 なぜなら、人間は行動が感情に左右される生き物であり、怒りの感情が収まるまでは相手の話はろくに聞いていないため、こういった対応ではクレームは解決しないからだという。

 では、いったいどうすればいいのだろうか。

「YES」と言わせて、怒りをトーンダウン

 山下氏が提案するのは、「超共感法」だ。

「共感」といっても、「最大の特徴は、クレームを言うお客さまに『共感する必要がない』点」と説明する。

共感すること自体はクレームの解決に効果はあるのですが、すべてのお客さまに共感しようとするのは、担当者にとって負担が大き過ぎます。何より解決に時間がかかります。ですから、超共感法では一般のクレーム対応法でよく言われるような、相手の話を傾聴しません。(P.85)

 傾聴の代わりに何をするのかというと、「怒っているお客さまに『そうなんです』(YES)と言わせるだけ」だ。

 なぜ怒っているお客さまに「そうなんです」と言わせることがクレーム解決につながるのだろうか。その理由を、山下氏は次のように語る。

お客さまの怒りを鎮めるには、そのテンションをトーンダウンさせる必要があります。そして、もう一つ大切なことは、否定的になっているお客さまの頭を、相手の言葉に耳を傾け、受け入れようとする「肯定脳」に導くことです。(P.87)

 この「否定脳を肯定脳に導く方法」というのが「そうなんです」などのYES言葉を言わせることの積み重ねなのだそうだ。

「否定脳」から「肯定脳」へ導く「超共感法」

「願い事は口に出すと叶う」「自分で言ったことを自分の耳に聞かせるのが大事」といった話を聞いたことがある人は多いのではないだろうか。

 これは、コーチングやカウンセリングでよく使われている「オートクライン」という脳の作用だ。

 自分の発した声を自分の耳で聞いて、脳が勝手にそれを認識して考えるというもので、自分が決めたことを言葉に出して決定することで、脳がその気になって行動することが確認されている。

「超共感法」は、この作用を活用した方法なのだ。

クレームを言うお客さまの脳は「つねにダメを探している」状態です。その脳に自分が言った「そうなんです」を聞かせると、脳は勝手に考え始めます。「そうなんです」はYES言葉なので、ダメを探している「NO脳」が、突然、自分の「そうなんです」という言葉で、「あれ? YESでいいんだ」と立ち止まるのです。(P.87-88)

「NO脳」になっている時に解決策を提示しても聞き入れてもらえないが、「そうなんだよ」と肯定させることで怒りが一瞬止まるという。

「自分の怒りや窮状を『わかってもらった』感情さえ抱く」と山下氏は解説する。

言い換えれば、超共感法はお客さまから敵対視されていた関係から、味方として認識してもらう関係に変化をうながすのです。その結果、後の対応がスムーズに運び、お客さまの怒りを消すどころか、感謝されてクロージングできるのです。(P.89)

「超共感法」で、クレーマーを味方につける

 例えば、どのような返答をすれば良いのか、簡単な事例でご紹介しよう。

 咳と喉の痛みから個人病院の耳鼻科を訪れた患者が、薬をもらったものの、「咳が止まらないじゃないか!」と何度も電話をかけてくる。

 看護師が「効き方には個人差があるし、1週間分処方しているからもう少し様子を見てほしい」と伝えるものの、納得しない。

 そんな時は、まずは「咳が止まらないんですね。おつらいですね」と相手の訴えをいったん受け止めて、相手に「そうなんです」と言わせる対応を取ると良いという。

「それだけで、相手の攻撃性はかなり和らぎます」と山下氏は語る。

 その後は、「大きい病院を提案する」など、患者が望む「今すぐ病気を治す」ことを提案するとベターだ。

 このように、クレーム対応はお客さまに「そうそう、そうなんだよ!」と言わせるように持っていくのが腕の見せ所ということだ。

 他にもさまざまな対応例が問題形式で記載されているので、気になる人はぜひ本書を読んでみてほしい。いくつかのパターンを頭に入れておくことで、ぐっと対応しやすくなるだろう。

 大変な事態にもなりかねないクレーム対応だからこそ、自分の武器として身につけておきたいものだ。